第17話 フロスト=ドラゴン
翌日、私たち11兵団とウェスベ将軍の9兵団は、フロスト峡谷へと発進した。兵力1万。歩行戦車30台。ガンシップ30機。デルタ戦闘機30機。これでギャラクシア中将を倒せるだろう。
「……ウェスベ将軍はなにを焦っているんだ?」
吹雪く中、クラスタがポツリと言う。
「焦っている?」
「そもそも、あんな雪原のど真ん中に駐屯基地を設立することもおかしい。私なら守りやすい地形にあり、物資を得やすい場所――シリオード南都に入り、長期戦に持ち込む。そうすれば、物資の得られない峡谷の連合軍は、いつかエネルギーが切れて撤退する。そこを突けばいいだろうに」
……確かに雪原のど真ん中に基地を置くのはおかしい。本来は地形を利用して駐屯基地を造るべきだ。ウェスベ将軍はフロスト峡谷から、ギャラクシアを追い出す事で頭がいっぱいなのか?
「それに、もしケイレイト率いるクローン軍が南都を攻撃したらどうするんだ? あの駐屯基地から南都まで、やや距離があるぞ?」
シリオードは雪原と雪山が多い。情報システムの発達していないこの大地。ケイレイト軍が動いたことに気が付くのは南都が攻撃されてから、もしくは攻撃される直前だ。
「そして、朝早くからの出撃。気温が低い中で軍を出撃させるなんてな。そろそろ凍傷になる兵士が出てくる」
「…………」
一番気温が低い時間から出撃。相手が人間ならさておき、相手は機械だ。人間なら寝ているだろうが、機械は寝ていない。いつ攻めてもさほど変わりはない。
そう考えるとウェスベ将軍の狙いがよく分からない。フロスト峡谷を守るのか、南都を守るのか…… ついでになぜあの時、お母さんの名前を出したのか、その狙いもよく分からない。
[パトラー将軍、もうすぐフロスト峡谷です]
「了解です」
30分ほどでフロスト峡谷が見えてきた。峡谷の出入り口辺りに連合軍の駐屯基地がある。そろそろ砲弾が飛んできそうだ。
「…………」
私たちは駐屯基地に到着した。いや、到着したのはいいケド、なんで反撃が来ないんだ? そもそも、この駐屯基地、誰もいないぞ?
壊れた軍用基地、というべきか。アチコチから煙が上がっている。そして、色んな所が凍り付いている。
壊れているのは基地や軍用兵器だけじゃない。軍艦まで壊されている。軍艦の一部分は凍りつき、斬り裂かれ、砕かれている。
「反乱?」
「まさか」
……まぁ、機械が反乱を起こすなんて考えにくいケド。
その時だった。やや離れた場所で、何かの雄叫びが鳴り響いた。当時に、何かを投げ飛ばす音まで。私たちは一斉にそっちを見る。
そこにいたのは、大型のドラゴン。2本の脚に2本の腕。肩から生える大きな翼。長い首。その先端の頭部。身体は大部分が氷色のウロコで覆われていた。
「な、なにアレ!?」
ドラゴンは近くの政府軍を攻撃しているらしく、地面に向かって水色のブレスを吐いている。ブレスが当たると同時に、一帯が凍っていく。凍ると、再び雄叫びを上げる。――超音波だ! 辺りが砕けていく。
連絡を受けたデルタ型の戦闘機が集まってくる。ドラゴンの周りを素早く飛びながら、爆撃・銃撃を始める。何度も爆音が鳴り響く。
「……ずいぶん翼がボロボロだな」
ドラゴンを観察していたクラスタがいう。そう言われてみれば、ドラゴンの翼は酷く傷ついていた。すでにボロボロ。恐らくここの連合軍と戦ったのだろう。
……私たちがここに来た時、物音はほとんどしなかった。ということは、戦闘は終わっていた、と考えるべきか。ギャラクシアは……
[う、うわあああっ!!]
無線機から私の部下の叫び声が聞こえてくる。ドラゴンに視線を向ければ、ガンシップや戦闘機が、爪や雄叫びで叩き落されていた。意外と素早い動きだ。
私たちもドラゴンへと向かおうとした時だった。私の無線機に通信が入る。ウェスベ将軍からだ。私たちは立ち止まって、通信をオンにする。
[パトラー将軍、ここは僕に任せてください!]
「えっ?」
[フロスト=ドラゴンの弱点は分かっていますから!]
フロスト=ドラゴン? あの氷色のドラゴンのことだろうか? そんな会話をしている間にも、ガンシップや戦闘機はやられていく。攻撃が効いていないのか? ……ウロコが硬すぎるのかも知れない。
[パトラー将軍はすぐにフロストドラゴンから距離を取ってください!]
「りょ、了解!」
私は通信を切ると、今度は部下たちに通信を入れ、すぐにフロスト=ドラゴンから離れるように連絡する。通信が終わると、残っていたガンシップはフロスト=ドラゴンから離れようとする。ところが、ドラゴンは再びブレスを吐く。凍りついたガンシップは次々と基地内へと落ちていく。
[う、うわっ、ガンシップが!]
……地上には、動きの遅い歩行戦車も多くあったハズだ。落ちてきたガンシップと衝突して、破壊される可能性もある。
しばらくすると、中型飛空艇が1隻やってくる。ウェスベ将軍率いる第9兵団の中型飛空艇だ。フロスト=ドラゴンはその中型飛空艇に向かってブレスを浴びせる。だが、頑丈な機体の上、シールドを張った中型飛空艇には全く効果がない。表面を僅かに凍らせるだけだ。
[マグマ・フレイム弾を撃てっ!]
中型飛空艇の艦底に取りつけられた砲身が、フロスト=ドラゴンを向く。ウェスベ将軍の合図と共に一斉に砲撃する。真っ赤に光り、炎を纏った特殊な砲弾が飛ぶ。
何発ものマグマ・フレイム弾は、フロスト=ドラゴンの胸部や肩に当たる。直撃と共に、辺りに一帯を焼き尽くせそうなほどの炎が、轟音と共に上がる。
雪国には全く合っていない真っ赤な炎が、フロスト=ドラゴンを焼き尽くしていく。しかも、僅かながらにマグマがかかっている。あの砲弾内にはマグマが入っているのだろうか?
「……物凄いコストのかかりそうな砲弾だな。対フロスト=ドラゴン用か?」
クラスタのいうことは、私も感じていた。アレは普通の戦場では使われない。ウワサには聞いていたケド、本物を見るのは初めてだ。恐らく、対フロスト=ドラゴン用に持ってきたのだろう。ということは、ウェスベ将軍はフロスト=ドラゴンがいることを最初から知っていたのだろうか?
連合軍を壊滅させ、数十人もの政府軍兵士を殺したフロスト=ドラゴンは、悲鳴のような叫び声を上げながら、炎に包まれた身体を基地に倒す。
まさか、ここに来て魔物と戦うことになるなんて思わなかった。もし、マグマ・フレイム弾がなかったら、私たちはどうなっていただろうか? 連合軍同様、壊滅させられていたかも知れない。
アサルトライフルを開発し、魔法発生装置を開発し、飛空艇を開発し、…… 人類はたくさんの科学兵器を持っている。それでもなお、自然の驚異は計り知れない。
かつて、財閥連合はハーベスト地方の自然を破壊して、そこに軍用基地を設置しようとした。一方、人間のこの戦争によって、多くの自然が破壊された。人間は、自然を簡単に破壊出来る。
でも、自然も、人間を簡単に殺すことが出来る。忘れられようとしている自然の驚異。それが牙を剥いたとき、私たちは命は、危機に晒される――




