第15話 シリオードの攻防戦
封じられた魔。
自然の力は偉大だ。
どれだけ強大な力を誇る魔物も、自然に気まぐれで滅ぼされる。
だが、自然は思考出来ない。
それが自然の最大の弱点だった。
そして、その弱点を知らぬうちに、人は突いていた。
自然は、戦争を避けられない。
自然は、戦争を止められない。
自然は、戦争に巻き込まれる。
だが、それでも自然は強大な力を持ち、人間に禍を下す。
【シリオード大陸 南部】
雪が激しく横から降りつける。世界は真っ白。どこを見ても雪ばかり。冷たい風が勢いよく吹きつける。骨まで凍りそうだ。
「パトラー将軍、そろそろ連合軍の戦闘地帯です!」
ライポートが窓を指差して言う。窓には一瞬、黒い何かが見えた。恐らく、連合軍の軍用兵器だろう。
連合軍は、グランドシティやアレイシア本部などを有する中央大陸(=コスーム大陸)の北にあるシリオード大陸にも進出していた。
雪原と岩山ばかりの小さな大陸を支配するのは、国際政府と同盟を結ぶシリオード帝国だった。3ヶ月前、シリオードの皇帝は国際政府に援軍を求めてきた。そこで、元老院議会は政府特殊軍将軍のウェスベ将軍を派遣。ウェスベ将軍率いる第9兵団はシリオード大陸に向かい、連合軍と戦い、一進一退を繰り返していた。
しかし、3ヶ月に渡る戦いで次第にウェスベ将軍は押され始めた。敵は機械の軍団だけじゃない。寒さも大きな脅威だった。
「連合軍を確認!」
「…………!」
白い大地に無数の黒い軍団。連合軍の軍勢だった。その先には、政府軍。ウェスベ将軍率いる9兵団だ。
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
「ぐぁっ!」
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
「うわぁっ!」
ガンシップが雪原に降ろされ、私はそこから飛び出す。後ろからライポートやクラスタ、兵士たちが続く。
[敵を確認。排除セヨ]
低空飛空戦車から身を乗り出す指揮官ロボットのバトル=アレス。戦車の砲身や、周辺のバトル=アルファが反応する。
私は近くにいたバトル=アルファを蹴り倒し、更に立て続けにもう1体のバトル=アルファを胴体を蹴り、雪原に倒す。サブマシンガンを取り出し、黒いロボットの兵団に向けて撃つ。何十発もの銃弾が連合軍の軍勢を襲う。
「かかれ!」
「黒い鉄の軍団を打ち破れ!」
「連合軍を倒せ!」
他のガンシップも着陸し、私の後ろから大勢の兵士たちがバトル=アルファやバトル=ベータたちを撃ち倒していく。
バトル=アルファやバトル=ベータも銃口を向け、私たちに銃弾を浴びせる。味方の兵士たちも白い大地に血を流しながら倒れていく。
[我が軍、劣勢。全部隊、ギャラクシア中将の陣地まで下がれ]
不意打ちを受け、劣勢を悟ったバトル=アレスは全部隊に撤収を命令する。前線のバトル=アルファやバトル=ベータは除き、連合軍は下がり始める。
私の11兵団とウェスベ将軍の9兵団はここぞとばかりに追撃を始める。撤収しながら戦うのは難しい。ここで追撃し、連合軍の兵員を減らす。敵が撤収しているときは、チャンスでもあった。
「撃て撃てぇ!」
「連合軍を逃がすな!」
……シリオードの緒戦は私たちの勝利に終わった。だが、ここを指揮するのは、コスモネットと同じ九騎(中将)の地位を持つギャラクシア。本当の戦いはここからだ。
*
【第9兵団 駐屯基地】
シリオード雪原に造られた政府軍の駐屯基地。11兵団の駐屯基地設立はライポートに任せ、私とクラスタはウェスベ将軍に会いに、そこへと向かっていた。
司令室の扉を開け、私とクラスタは中へと入る。中は暖房が効いていて、温かい空気だった。既に数人の軍人が長方形の机に向かって座っている。一番奥の席に座る若い男性が、ウェスベ将軍だ。
「ようこそ、パトラー将軍、クラスタ中将」
栗色の髪の毛に同色の瞳をしたウェスベ将軍は立ち上がって言った。私たちも挨拶を返し、衛兵に案内された席に座る。ウェスベ将軍のすぐ近くだった。
「――連合軍のギャラクシアはここから北にあるシリオード南都を陥落させ、そこを拠点にしたいようです。そこを拠点に、西に進み、西都を。そこから北東に進み、シリオード帝国の首都シリオドアを攻めるつもりのようです」
ウェスベ将軍が机にシリオード大陸の地図を映し出しながら、これまでの状況を説明する。連合軍は帝都シリオドアを落としたい。その為にまずは南都を。続いて西都を。最後にシリオドアを落とす予定らしい。
ウェスベ将軍は南都を奪われる前に連合軍を追い出したい。南都を落とされると、そこを拠点にされ、シリオードから連合軍を排除するのが難しくなるという。
すでに東都は連合軍将軍のケイレイトとコマンダー・レクが率いるクローン軍によって奪われている(幸いなことにギャラクシアとケイレイトの仲が悪い上ため、両者が協力する可能性は極めて低い)。
「東都のケイレイトはどうしますか?」
「こちらは放置してもさほど問題はありません。前々から言われていますが、ケイレイト・クローン軍と連合議会・連合軍司令部は仲が悪いのです。東都の支配者ケイレイトはクローン派です。連合政府の命令に従って積極的にシリオードを攻める事はないでしょう」
連合政府はかつてクローンたちを奴隷にしていた。今でこそクローンたちは強大な力を持つようになったから、彼女たちが奴隷のように扱われることはなくなったケド、その過去のせいで、クローンと連合政府の間では温度差があった。
連合政府内では、クローン勢力は4つあった。
1つが連合軍・将軍のキャプテン・フィルドを中心とした第2e兵団のクローン軍(アレイシア・クローン軍)。アレイシア本部を拠点にし、総兵力は140万。最大勢力を誇る。連合政府とは、微妙な距離がある。
もう1つが、連合政府・企業リーダーの少年セネイシアを中心とした第3b兵団(セネイシア・クローン軍)。ダーク・サンクチュアリを拠点としている。こちらは連合政府の命令を色々と理由をつけて断る。兵力は100万超えとのウワサがある。
もう1つは、キャプテン・フィルドと同じく将軍のケイレイト率いるクローン軍(ケイレイト・クローン軍)。彼女もキャプテン・フィルドと同様、クローンを大切にし、連合政府と距離がある。
最後の1つは、連合議会や連合軍司令部、他の将軍・企業リーダーの傘下にあるクローン兵。彼女たちは――いってしまえば、奴隷だ。
「……よって、ギャラクシアとその軍勢を倒すことが、最優先なのです」
「…………!」
……少し、聞いていなかったケド、大丈夫かな?
私は暖房が効いているとはいえ、やや寒い司令室で冷や汗をかきながら頷く。やがて、それからすぐに会議は終わり、私たちも駐屯地へと戻ろうとする。
「パトラー将軍」
「…………! えっ、なんですか!?」
司令室から出ようとした私をウェスベ将軍が呼び止める。聞いてなかったことがバレたか!?
「パトラー将軍の――。…………」
「…………?」
「――17年前にお亡くなりになった政府特殊軍将軍のホープ=オイジュス閣下は、……パトラー将軍の母親、なんですよ、ね?」
「えっ……!」




