第14話 守りたいモノ
一瞬の閃光。それと同時に爆発が巻き起こる。クェリアの放った白色の衝撃弾が破裂した。私は剣とシールドでそれを防ぐ。
「クッ……!」
爆発の衝撃で起きた煙を斬り裂きながら、蒼色の装甲服を纏った女将軍が現れる。その剣が私を真っ二つにしようと、振り降ろされる。
私は火炎弾を飛ばす。炎の魔法弾がクェリアの剣に当たって爆発。火柱が上がる。熱風が広がる。火の粉が散る。
「やるじゃないか、クローン」
後ろに飛んだクェリアが言う。その頭から一筋の血が流れ出していた。魔法弾や剣での戦い。もう10分以上は戦っている。それでも決着はつかない。私とクェリアの実力はほぼ互角だった。
「お前も大変だな。とっとと逃げればいいものを」
「…………」
私はクェリアに向かって6つの衝撃弾を飛ばす。青剣を手に持つ彼女は3つの衝撃弾を斬り、爆発させる。残り3つの衝撃弾が彼女を襲う。爆発と共にその身体はひび割れた壁に叩き付けられる。
また煙が上がる。煙の中から青色の電撃が飛んでくる。私はそれを剣で防ぐ。電撃を防いでいた時、一直線に飛んできた雷が、私の胸を貫く。
「ぐっ……!」
強力な攻撃に身体をフラつかせる。その隙を狙って、クェリアが私の方に飛び込んでくる。その手には長い青色の刃をした剣。
私は間一髪のところでそれを剣で防ぐ。金属音が上がり、火花が散り、ビリビリと辺りの空気に衝撃が走る。
防がれたクェリアは小型ジェット機で空中に飛び上がる。空中で自身の剣に電撃を一気に纏わせると、勢いよく剣を私に向けて振る。電撃を纏った斬撃が飛んでくる。
「…………!」
私は素早く身を屈め、斬撃を避ける。当たらなかった斬撃は、私の後ろの壁を砕く。それと同時に辺りが揺れるほどの爆発を引き起こす。その衝撃で身体が倒れそうになる。まともに喰らったら、シールドを張っていても、戦闘不能に陥るほどの攻撃だ。
攻撃を避けた私は、超能力で床を叩き、その衝撃で空中に飛び上がる。クェリアに接近すると、剣で彼女の身体を斬ろうとする。それは、剣で簡単に防がれる。
「私の主要武器は剣。その私に剣で対抗するとは、お前も愚かだ。お前たちクローンの主力は魔法や超能力だろう?」
「…………」
私は自身とクェリアとの間で大型の衝撃弾を繰り出し、爆発させる。2人を巻き込む攻撃。私は床に叩き落され、クェリアは壁に叩きつけられ、床に落ちる。
身体が痛い。そろそろ限界だ。でも、もういい。
「何度も似たような攻撃の繰り返し。フフ、クローンは頭も悪いのか?」
クェリアが口から血を吐きながらゆっくりと立ち上る。私はその隙を突いて、大型衝撃弾を放つ。これまでで一番大きい衝撃弾。
クェリアは魔法シールドを張ると、剣でもそれを防ごうとする。轟音が鳴り響く。空間を引き裂く様な強烈な音――
私は灰色の煙に飛び込む。煙に入ったときだった。後ろから殺気を感じた。クェリアだった。彼女は剣に電撃を纏わせていた。
「消えろ」
私が二重に魔法シールドを張るのと同時に、クェリアの剣が振られる。電撃を纏った斬撃が私のお腹に直撃する。私の身体は勢いよく吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。と同時にさっき以上の爆発が巻き起こる。
中型飛空艇が突っ込んだ衝撃と、戦闘の衝撃で崩れかけていた後ろの壁。それにトドメを刺すには、充分過ぎた。爆発と共に後ろの壁と周辺の床が崩れる。私もクェリアも外に放り出される。
私たちは瓦礫と共に地面に向かって転落していく。そんな状況下でも、私は戦っていた。電撃弾と火炎弾を飛ばす。全く予測していなかった攻撃だったらしい。クェリアはそれを正面から喰らう。
「ガッ、ハッ……!」
血を吐きながら、アレイシア城の壁に叩き付けられるクェリア。壁に叩きつけられ、また地面に向かっていく。
そろそろ地面だな。私は最後の力を振り絞って物理シールドを張る。私の咳と共に空中に血が舞う。その血が自分の血と理解するまでに、一瞬の間があった。
背中。そして、身体全体に衝撃が走る。身体がバラバラになりそうだった。白色に近い白色をしたコンクリートの地面に落ちたらしい。
一方、クェリアはバランスを崩しつつも辛うじて着地する。あのジェット機を上手く使ったのだろう。だが、その息は荒く、足元もフラついていた。
「ク、クローンっ…… まさか、ここまで、実力がある、とは……」
剣で自分の身体を支えながら、戦闘不能に限りなく近い政府軍の女将軍は言った。その声も絞り出すようだった。だが、次の瞬間、口の端を吊り上げて笑う。
「動けない、のか? フフ、そこで見ていろ。アレイシアの崩壊を……」
クェリアは懐からプラズマ爆弾の操作機を取りだそうとする。――その表情が凍り付く。そりゃ、そうだろう。なぜなら……
私たちの周りにクローン兵やクローン将官が集まってくる。すでにクェリアの率いる政府軍は撤退したのだろう。
「閣下、大丈夫ですか?」
「……コマンダー・コミット……」
表情を凍り付かせたクェリアの周りを、距離を保ちつつも大勢のクローンが取り囲む。それを見た私はコマンダー・コミットに支えられながら起きる。
「どうした、クェリア。探し物、か?」
私は血まみれの震える手で、そっとプラズマ爆弾の操作機を取りだす。
「そ、それは……!」
「剣もいけるケド、やっぱり主要武器は、お前の言うように、魔法と超能力、だな……」
「クッ……!」
私はわざと剣を使って戦いを挑んだ。クェリアに接近する為だ。煙に紛れて、そっと超能力でプラズマ爆弾の操作機を奪い取った。
「今回は……お前の勝ちだッ!」
常勝の女の将軍は悔しそうに叫ぶと、勢いよくジェット機で空中に飛び上がり、そのまま遥か彼方の空へと飛び去って行った。……ジェット機も壊すべきだったか?
クェリアが飛び去って行くと、途端に自身の身体から力が抜け落ちる。コマンダー・コミットが、そんな私を支える。
「キャプテン・フィルド閣下!」
「す、すまない、コミット……」
コマンダー・コミットに抱き抱えられながら、私はどこか満足感と安心感を得ていた。アレイシアを守れた、からじゃない。仲間を、姉妹たちを守れたからだ。
私はかつて、この手で、連合政府の命令するがままに出来そこないの、弱いクローンを殺したこともあった。自分の理想を叶えるためならば、それも仕方ない、と考えていた。
でも、今は違う。今は――
「負傷者の手当てを急げ!」
「イエッサー!」
多くのクローンは、姉妹を大切にする。私もそれは同じだ。弱い姉妹や弱った姉妹を見捨てはしない。その気持ちが、将軍という今の地位に就いてから強くなった。
戦争で多くの姉妹が死んでいく。昔のクローン軍は強かった。弱い子を兵にせずに殺していたからだ。今、私がクローン軍の管理官となった今は、それをしていない。結果としてクローン軍は弱くなったが……
「キャプテン・フィルド閣下、政府軍は全部隊、レーフェンス州から撤収したようです」
「そうか……」
コマンダー・コミットが報告に来る。これで戦いは終わりだ。この戦いで政府軍は、クェリアは大きな損害を被った。しばらく侵略はないだろう。
私は西の山々へと沈んでいくオレンジ色の美しい夕陽を目にしながら、アレイシアへと戻ってくる部隊を迎える。私は、姉妹を守れた――
かつて、アレイシアで、ある戦いがあった。
私が将軍になったばかりの頃だった。
その時の戦いで、私は彼女たちを守れなかった。
大勢のクローン・ソルジャーと、クローン・コマンダー2人を失った。
その時になって、ようやく仲間と姉妹の大切さが分かった。
だが、その時には、もうすでに失った後だった。
だから、その時に誓った。
もう二度と、姉妹を見捨てない、と――




