第13話 恐怖に満ちた解答
【アレイシア城 第6層 北部エリア】
私は息を荒げながら、ようやくアレイシア城第6層の中型飛空艇が突っ込んだ場所へとやってきた。火災が起きていたらしく、少し空気が焦げ臭い。まだ、炎がくすぶっている。
中型飛空艇は酷い状態だった。最高司令室を含む前方部はぐちゃぐちゃになっている。……まだ中部と後方部は傷が少ない。
「フフ、来たか」
「…………!」
私は声のした方向を向く。壊れた中型飛空艇内から、蒼に緑のラインが入った装甲服、白銀の髪色をした女がそこにいた。クェリアだ。白に近い黄緑色をした冷たい瞳が私を捉える。
「たった今、準備が出来たところだ。これは私からのプレゼントさ」
「……なにがある? 中型飛空艇を1隻無駄にしながら、なにを持ち込んだ?」
「…………」
クェリアは口の端でニヤリと笑う。彼女は手で何かを合図する。すると、政府軍の兵士が誰かを担いでやってくる。黒色のレザースーツに同色の装甲…… クローン・コマンダーだ。
「このゴミはコマンダー・ヒス、だったか?」
「しょ、しょう、ぐ……」
乱雑に投げ捨てられるコマンダー・ヒス准将。彼女は血まみれになっていた。しかも、その両腕はなくなっていた。……よく見れば、クェリアの装甲服にも血の跡がある。
「30人ぐらいのクローン・ソルジャーは私が始末した。残るはコレだけ」
「……コマンダー・ヒスを放せ!」
「フフ……」
私の言葉を無視し、クェリアは残酷に笑う。その瞳には狂気が宿っていた。
「知っているか? かつて連合政府は“プラズマ・キャノン”という物を開発したそうだな」
「…………!」
プラズマ・キャノン……! あの忌々しい連合政府が生み出したプラズマ兵器の名を、この女から聞くことになるとは……!
あの兵器は、撃てば一定の距離飛んだ後、広範囲に広がり、複数のターゲットを巻き込み、電撃と爆発によって攻撃することが出来る。その実験台に、クローンが使われたこともあった。
クェリアは床に転がされたコマンダー・ヒスの腹に、黄土色をした小さな長方形上の物体を乗せる。コマンダー・ヒスは痛みと恐怖に顔を涙と血で濡らしていた。
「プラズマ=ボム。我が兵団が生み出した兵器だ――」
クェリアの横にいた男性――カーコリアは手に持った小型携帯端末を操作する。その途端、箱は爆発。それと同時に、激しい電撃音が鳴り響き、眩しい光が発生する。プラズマが広がり、コマンダー・ヒスと、その周りを巻き込む。
一瞬の間を置き、爆発音が鳴り響く。吹き飛ばされそうになるほどの爆風。それは少しの間続いたが、やがて収まる。――収まった時、コマンダー・ヒスの肉体はバラバラになっていた。至る所に彼女の肉片が散らばっている。
「プラズマ爆弾。それを持ってきた。――これよりも、遥かに大きい特大サイズのものが、この飛空艇内に大量にある」
「…………!!?」
あんな小さなサイズであれほどの爆発を引き起こした。それが、特大サイズとやらになれば…… しかもそれが大量にある、という。
……この第6層はもちろん、第5層と第7層さえも吹き飛ぶかも知れない。第6層が吹き飛べば、それより上は崩れ落ちる。――アレイシア城は破壊される。
「か、艦隊には全力で砲撃させるべきだったか?」
私は最悪のシナリオを思い浮かべながら言う。その声は、やや震えていた。
「……今、私たちがここまで来て、プラズマ爆弾のエネルギー・システムをオンにした。オフの状態で爆発させても、さっきの爆発の10分の1にも満たない爆発しか起こらないからな」
「最初からオンにしておけばいいだろうに」
「フフ、途中の砲撃で爆発し、連鎖的に全部吹き飛んだから困るのでな」
途中の砲撃でも、突っ込ませても、爆発しなかったのは、そういう理由だったのか。
「わざわざお前たちを引き付けておくために、部下を連れてくるのは大変だったが、それももういいだろう。カーコリア、囮の部隊を撤収させろ」
「イエッサー!」
……本気で攻めなかったのは、そういう理由か。本気で攻め込み、奥深くまで入り込めば、撤収しにくくなる。それに、奥のエリアに進めば、分散し、やられやすくなる。囮として、私たちを引き付けておけばいい。わざわざ死傷者を増やす必要もない。
「わざわざ艦隊の下を通るのも大変だったぞ。アレはコントロールが利かなくなって突っ込んだ、という演出さ。普通に突っ込んだらおかしいだろう?」
「……1隻、ここに来れなかったな」
「フフ、それも計画の内だ。あの飛空艇には何も入っていない。兵員も操縦士だけさ」
それも計画の内、か。私もコマンダー・コミットも騙されていた。いや、ここのクローン軍全員が騙されていた。
「でも、今ここで爆発させれば、お前も死ぬぞ?」
「私が? そうかな?」
クェリアは私に背を見せる。……そこには小型のジェット機が背負われていた。なるほど、それなら逃げられそうだ。
「……アレイシアの破壊を始めようか」
カーコリアから小型端末を受け取ったクェリア。私は剣を引き抜く。彼女もまた同じように剣を引き抜く。ここで負ければ、自分の命はもちろんのこと。下で戦う姉妹や、アレイシア城にいる何千もの訓練兵や育成途中にあるクローンも全て死ぬ。生き残っても、それは奴隷としての人生だろう。
「お前たちの破滅を止める方法は1つ。――私に勝つ事だ」
自身に満ちた笑みを浮かべながらクェリアは言う。その瞳は既に勝ちを確信していた。――この私が人工の生命体なんかに負けるハズがない。そんな想いが読み取れる瞳だった。




