第12話 湧き上がる疑問
「キャプテン・フィルド将軍、敵はアレイシアの破壊が目的のハズ」
コマンダー・コミットがアサルトライフルで銃撃しながら私の側に寄ってきて言う。
「……空爆だと思ったが、違うようだな」
私は空爆でアレイシアを破壊すると予想していた。30隻もの中型飛空艇艦隊を見て、それは確信に変わった。だが、どうにもそれは違うらしい。
政府軍の兵士たちは上陸し、激しい戦闘を繰り広げている。ならば、アレイシアの陥落を狙っているのか?
いや、それはあり得ない。上陸した兵員が少なすぎる。アレイシア要塞のクローン兵は50万近い。それに対し、クェリア率いる12兵団の兵員は4万以下だ。それも、2隻の中型飛空艇は墜落している。実質は3万人程度だろう。
「アレイシア空域で戦っているスロイディアとクォットの軍勢は?」
「味方の艦隊に阻まれ、未だ上陸していません。それに、彼らはあまりに劣勢。撤収は時間の問題かと」
……ますます分からない。クェリアは何を考えている?
「あ、そういえば将軍、このアレイシア城に突っ込んだ中型飛空艇ですが、――」
「突っ込んだ、だと?」
「えっ? ええ、確かに突っ込んだとの報告がありましたが…… それによって死傷者が67名ほど……」
政府軍の中型飛空艇が突っ込んだ……? 何の為に、だ?
「そういえば、墜落と突っ込んだ2隻の飛空艇は、防衛艦隊の下を通ったらしいな」
「はい、そうですが?」
「なんでわざわざ艦底からの砲撃を受ける下を通ったんだ?」
「えっと……」
コマンダー・コミットは答えに詰まる。
よく考えれば、おかしな話だ。普通に他の中型飛空艇と同じく艦隊の上を通れば下を通るより、ダメージは少なくて済む。クェリアがそれに気が付かないハズがない。
「……クェリアはどこだ?」
私は戦いの場を素早く見渡す。煙で見えづらくなっている。広いガンシップ格納庫では大勢のクローン兵や政府軍の兵士たちが戦っている。悲鳴や叫び声、銃撃音や爆音が鳴り響く。それに混じって魔法弾の音も聞こえてくる。
「撃てぇっ!」
「ぐあぁっ!」
「死傷者4名! 救援を!」
「イヤだぁっ」
「殺せ!」
「連合軍を打ち破れ!」
……クェリアはいない。指揮をしているのはランディという政府特殊軍第12兵団に所属する中将の男性だけ。あの残虐な女将軍の姿はない。
「進めぇ!」
「陣形を崩すな!」
「ここで防ぐんだ!」
「かかれ!」
「ロケット弾、撃てッ!」
「痛いよぉ!」
「急げ! クローンの増援が来るぞ!」
なぜクェリアはいない? 殺戮と手柄に貪欲なあの女のことだ。私の首を真っ先に狙って来るものかと思っていたが……
「……中型飛空艇が突っ込んだところはどこだ?」
「えっと、アレイシア中央部のM-6-Nですが……」
「アレイシア城の中腹だな?」
「ええ、そうです」
私は超能力で近くの政府軍兵士を斬り殺す。血が飛ぶ。……なにか、おかしい。
「がんばれ!」
「まだ、防げてるぞ!」
「ええい、なんとか突破しろ!」
「相手は女だ!」
政府軍の兵士は次々と入ってくる。なのに、まだここを突破できない。いや、ここを突破したところでアレイシア城と周辺施設を制圧できるハズもない。
「行け!」
「全兵、かかれ!」
「人工の魔女を皆殺しにしろ!」
私は血の滴る剣を握ったまま、後ろを振り返る。建物の奥から次々とクローン兵がこっちに向かって走ってくる。
私は前に視線を向ける。緑のラインが入った白色のガンシップが何度も往来し、大勢の兵士を上陸させている。上陸した兵士の数が多く、後ろではまだ戦っていない兵士も多い。
ここを突破するなら、あの兵士を全員、この格納庫に雪崩れ込ませればいい。防衛扉が降りてはいるが、あれを壊す事なんて簡単に出来るハズだ。
「……アレイシアM-6-N……」
アレイシア城の第6層北部エリアは確か食堂があったハズ。……その下、第5層と第7層には――
「第7層にはクローン製造工場とクローン研究所、第5層にクローン訓練場…… その間に突っ込んだ中型飛空艇…… コマンダー・コミット、第5層と第7層から連絡は?」
「いえ、特に何も……」
中型飛空艇に兵員は乗せていない、と考えるべきか……? いや、乗せているハズもないか。意図的に突っ込ませられると知ったら、乗せられる兵員が反乱を起こすだろう。
考えすぎか? ただ単に艦隊の下を通り、その結果、攻撃を受けた。攻撃を受け、コントロールが利かなくなって、そのままアレイシア城に突っ込んだ、と考えるべきか? ……いや、コントロールが利かなくなったのなら、着陸させるのが普通ではないのか?
「…………」
なぜ、アレイシアに突っ込んだ中型飛空艇は、攻撃を受けやすい艦隊の下を通った? 艦隊の上の方が安全に決まっている。それぐらい、クェリアは分かる。カーコリアやその他の軍人でも分かる。
なぜ、アレイシアに突っ込んだ? 攻撃によってコントロールが利かないのなら、不時着させればよかったハズだ。それぐらいのスペースはある。
なぜ、クェリアは出て来ない?
なぜ、アレイシア城や他の施設を攻撃する政府軍は“本気で”攻撃しない? さっきからゆるゆると攻撃しているだけだ。
「クッ、もっと仲間を呼んできて!」
「イエッサー!」
「みんなで故郷を守るんだ!」
「急いで突破しろ!」
「アレイシアを陥落させるのだ!」
「連合政府を撃ち倒せ!」
本気で攻め込めば、もう少し奥まで攻め込めるハズだ(それでも施設全域の制圧はムリだろうが……)。
「……突っ込んだ中型飛空艇から誰か出て来たか?」
「えっ、いや、特に誰も出てないと報告が……」
コマンダー・コミットは前から押し寄せてくる政府軍兵士を相手にしながら答える。彼女もアレイシアに突っ込んだ中型飛空艇を特に気にしてないようだ。
「あっ、そういえば突っ込んだ中型飛空艇の機体後方――機体後方はアレイシア城から突き出ちゃってますが――、そこに向かって政府軍のガンシップが1機向かったとの報告はありましたケド……」
「なに……?」
政府軍のガンシップが1機突っ込んだ中型飛空艇に向かった? 生存者の確認か? ――いや、クェリアがそんなことをするのか? 他の将官の命令か?
「……突っ込んだ中型飛空艇の中身はなんだ?」
「知りませんよ、そんなこと」
……なにを運び込んだ? 人じゃない。なにか、物を運び込んだ可能性がある。そして、今、突っ込んだ飛空艇に向かったガンシップの乗員が…… いや、待てよ。まさか、クェリアは……
「えっ、将軍――!?」
私は剣を握り締めたまま、銃弾が飛び交うその場から走り出す。“そういうこと”、か――!




