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序章

序章


 七月下旬、日本国内某所。

 今日で学校の一学期が終了し、明日からは長い夏休みが待ち受けている。

 うかれた高校生達が校門をくぐりながら夏休みの予定を語り合う中、一人海外からの封筒片手にため息を吐く少女がいた。

 彼女の名は日野蓮華ひのれんげ。高校在学中の二年生。家族は父一人で、その父も海外に単身赴任しており、現在は同年代から羨まれる一人暮らしの毎日を送っている。友人一同から夏休みは上がりこむぞと一方的に宣告されていたというのに、まさかこんなタイミングでこんな手紙が送られてくるとは蓮華自身も想像していなかった。

 手紙の送り主は父だった。内容は仕事に一段落ついたので遊びに来ないかというものだ。

 一段落ついたのなら帰って来い、というのがまず第一の感想。しかし単身赴任で長らく離れていたとしても、やはり家族は家族だった。

 蓮華ならばそう非難すると予測していたのだろう。連絡はいつも電話のくせに、今回に限っては手紙で、おまけに飛行機のチケット付で送りつけてきたのである。

 つまるところは拒否権なし。こんなものを送られてまで拒否できる性格ではないことを、父は誰よりも熟知していた。

 完敗。その一言に尽きてしまう。

 蓮華は鬱屈とした様子で封筒に収まったチケットを見やる。

 出発は明日の朝。この手紙が届いたのは今朝。碌に準備する時間すら取れやしない。荷造りは今ある荷物だけで行い、足りない消耗品は現地で調達せねばなるまい。きっと慌しい旅行になる。この時点で既に嫌がらせの域に達しているのではなかろうか。

「あの人は……本当にいつも急なんだから……」

 毎度毎度こういうことは早くから連絡しておけと言っているのに、父はこういう場合にばかり、張り合うように毎度連絡なしで飛行機のチケットだの、温泉旅行現地集合の旅などを企画して送りつけてくる。

 出会い頭に叱り付けてやろうと心に決めているというのに、あの人は自分の顔を見るなり半泣きになって飛びついてくるという、腹が立つのに憎めない人物なのだ。

 結局その都度負けるのは自分の方で、今回も既にどうやって友人達にお泊り会の中止を告げようか思案する自分がいる時点で負けは確定的だった。

 やはり偶には反抗してみるべきだろうかと考えてみるも、そんなことをすればきっと父は号泣しながら、やはり自分に飛びついてくるのだろう。

 どっちにしても結果は似たようなものじゃないか。場所が日本になるか海外になるか、それだけだ。

 とはいえ、このチケットが届いてしまった以上、使わないことにはもったいない。

 飛行機代だってタダではないのだから。

 チケットを封筒に収め、折り曲げないように鞄に仕舞い込んでから、蓮華は家とは反対方向へ向けて歩き出した。

「とりあえず、観光マップだけは買っておかないと迷うわよねぇ……」

 はてさて、日本の書店に並ぶ観光マップでどこまで迷子防止ができることやら、今から先が思い遣られる。

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