Chapter1-2
逃げるには相手の警戒が解けた一瞬が最善。だが、相手も素人ではない。何度もチャンスがあっても、実行が出来るのは一度きりだろう。
無駄に頑丈そうな大人、二人が俺を挟むようにして立つ。これで腕を拘束されれば、なす術もないが──
「……おい、早く歩けよ」
諦めた表情のくせに、一向に動こうとしない俺をじれったく思ったのか、背中に強い衝撃が走る。さすが脳まで筋肉は違う、楽なシチュエーションを作ってくれた。このまま転倒した拍子に靴底に配置してある装置を押せば万事解決。
「うわっと」
どさり、と倒れこむはずが硬い腕に転倒を阻まれた。
──なんてことをしやがった! 絶対に倒れこめると思ってたせいで事前に装置を起動させちまった!!
「どうした。この後のことでも考えて、ぶるっちまったか?」
「い、いや、それもそうだが、もっと先に危機が迫ってるんだ」
「あ?」
のんきに返答してると、四方からカチッと何かが開かれる音がした。本当の意味で諦めた俺は次の衝撃に備える為に覚悟を決める。
一つを除き、目算通りに銃身が顔を覗かせた途端、ゴム弾が射出された。
『……っ!!』
その場にいる全員が息を飲む声がする。俺自身、当たる気は更々なかった為に殺傷力はないものの、威力を最大限高めたゴム弾は驚異的だった。
現に誰一人、痛みに耐えきれず我慢するのに神経を集中しているようだ。一部は大事な所を直撃して失神しているが、同情してはいけない……おー、痛そう。
仕掛けた当の俺は、覚悟を決めていたのもあり、既に出口に向かっている。額に俺特製のデザインされたスタンプが、きっと赤く印されているが、見ないでくれ。
「怒らないでくれよ。死者は出さない為の措置ってやつだからさ!」
「くぅ、こんなことして許されると思うなよ!?」
普通なら身の毛もよだつセリフだが、ディエゴは大事な所を押さえながら言っているので、イマイチ迫力に欠けている。直撃しているのにも関わらず、威嚇してくるあたりは、流石ボス、と言わざるを得ない。
せっかく立場が逆転したのだから、捨てセリフでも一つ。
「どうぞお好きに。お目当ての物は戴いてから、失礼しますねー」
「この借りは必ず、何かで返してやるからな!!」
潔くも聞こえる罵声を背に、伏兵を警戒しながらお目当ての物を探すことにした。