夢
「夢」
それはとても曖昧なもの。現実と絡まりながら、見る人の想いと願いと記憶の中を魂がさまよっているのかもしれない。
夢は時折、人々を悲しい世界に連れていったり、恐怖の世界を味わせたりする。しかし、それとは対象的に人々を最高に幸せな気分にさせる事もある。
私の場合もそうだった。
恋人が亡くなったという悲しい現実から唯一私を救ってくれたのがあの夢であった。
夢の中で彼に逢う。夢の中で、彼は、私と同じ空の下で私と同じように息をし、生きていた。二人は、笑いながら会話を楽しんでいた。
心地良く響く彼の声に聴きいる私。
全てが完璧で、一つ一つが愛おしかった。
しかし、夢は夢。やがて夢は終わり、目覚めの時がやってくる。
私の夢は、夢の終わりに、彼が一生懸命何かを伝えようとするのだが、その言葉が聞き取れず、
「分からない。」
という私の一言で夢が終わり、目が覚めた。
最高な夢だけに、終わりが悔やまれ、何を言っていたのか、とても心にしない引っ掛かっり、もう一度見たいと心から願っていた。
その夜、願いは叶い…。
私は再びあの夢を見る事ができ、大好きな彼に逢えたのだ。
しかし、また、最後の言葉が分からないまま終わりを迎えた。
私はどうしても聞きたくなり、二日、三日…一週間、一ヶ月と、ずっと夢願っては、夢を繰り返し見ていた。
それはまるでDVDのワン.シーンをずっと繰り返し見ているかのようだった。
それから間もなくして、私は気がついた。私は、た夢の中で夢を見ていたのだ。
恋人を亡くした悲しい現実に耐えきれず、大量の睡眠薬を飲み、意識を失ったまま、ずっと病院のベッドで眠り続けていたのだ。
愚かな私が夢から覚めた日に見た夢は、例の夢であったが、やっと最後まで見る事ができた。彼は、ずっと夢の世界の夢の中で、彼は、生きているのに、生きようとしない私に、
「僕の分まで生きて。」
と言い続けていたのだ。
最後の言葉を知った私は、彼に対して申し訳無いと思い、涙を流した。
生きたいと思い、生きられなかった彼に、なんて馬鹿な姿を見せてしまったのか…。
私は、いつか空の上で彼に逢える日が来るまで、彼に恥じる事の無いように、一人で、彼に生きていく事を誓ったのだった…。
それからというもの、夢から覚めた私が、あの夢を見る事は無かった。