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日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた  作者: 溝野 重賀
第3章 揉める部活と失恋大騒動

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第69話 ディベート2

 樫田が下がると、山路が前に出てきた。

 順番はすでに決まっているようだった。


「次は僕だねー」


「おう」


 飄々とした山路が大槻と向かい合う。

 カラオケ屋での話し合いにいなかったから、正直俺は山路が何を聞くのか想像がつかなかった。


 知っているのは早期解決を望むというぐらいで、何を思っているのだろうか。

 大槻と俺がじっと山路を見る。


「いやー、なんだかこっちまで緊張するねー。だからシンプルに手っ取り早く行こうー」


 いつも通りのテンションで話し出す山路。

 なんだか、気が抜けてしまいそうだ。


「ねぇ大槻は部活好き?」


「ああ、好きだぞ」


「そっかー、そっかそっか」


 何度も頷く山路に大槻も俺も困惑した。

 満足そうに笑いながら、山路が一言。



「うん、納得した」


「は?」


「え」


 一瞬、意味が分からなかった。

 だがすぐに山路とのディベートが終わったのだと理解する。


「な、なんで!」


「まぁ、僕的には部活が好きならそれでいっかなーって」


 大槻の質問にさらっと答えた。

 驚く大槻と俺に、山路は笑う。


「はは、そんなに驚かなくてもー」


「いや、けどよ」


「大槻。僕は僕なりに結論を出しているんだ。それに納得は個人の判断だしね。僕にとっては今の質問に答えてくれれば満足だよー」


「……」


 サービスではないのだろう。

 ある意味、早期解決を望むと言っていた山路らしい簡潔な質問だった。


「じゃ、頑張れ」


 それだけ言い残してみんなの方へ歩いていった。


 山路が戻ると向こうでなにやら話している。

 増倉と椎名が何かを言い出し、それを樫田が止めているようだった。


 なんとなく話している内容が想像つく。

 そして話が終わったのか、増倉がこちらにやってくる。


 残りは女子。

 ここからは樫田や山路と話すのとは違くなるだろう。


「……なんかズルい気もするけど、次は私だね」


「ああ、頼む」


 増倉と大槻が向かい合う。

 俺からするとあまり話しているところを見かけないペアだった。


「なんか樫田も山路も甘いというか優しいというか……それが男の友情ってやつ?」


「二人には感謝している」


「ふーん、そっか…………私さ。大槻は一人じゃ立ち直れないんじゃないかって思った」


「まぁ、杉野に助けられてここにいるよ」


「だろうね。でも私は杉野だけじゃ説得は無理だと思ってた。だから樫田から話聞いたときは驚いた。どんな話をしたの?」


 増倉の問いに、大槻は俺の方をちらっと見た。

 どこまで話していいか迷ったのだろう。

 俺が小さく頷くと、大槻は増倉に向かって話し出す。


「杉野と二人になった時、俺は部活を辞めるって言ったんだ」


「!! ……それで?」


「杉野からカフェに入って駄弁ろうって言われたんだ。そんで始めに言われたのは歓迎会のことだ。俺がいなくなった後のこと。こんなこと言える立場じゃないが本当に安心した。滅茶苦茶にならなくてよかったって思った」


「そうだね、よかった」


「そっから杉野が説得してくれたんだけど正直平行線だった」


「じゃあ、どうやって立ち直ったの?」


「偶然なんだけど、一年生たちと出会ったんだ」


「一年生たち?」


「ああ池本と田島、金子の三人とな」


 増倉が俺の方を向く。

 どうやら確認のようだ。


「ああ、本当だ」


 俺は短く答える。

 すると増倉は驚いた顔をしながら大槻の方へ視線を戻す。


「どうして一年生たちが?」


「昨日、杉野が池本に渇望の話をしたらしくてな。そんで三人で集まってその話をしていたらしい」


「渇望って昔、森本先輩が言ってたアレ?」


「ああ。昨日、池本が杉野に相談事があってな」


「なるほど、その話なら聞いたよ……それで、一年生たちと会ってどんな心境の変化が?」


「……なんていうか、色々懐かしくてな」


「懐かしい?」


「ああ、去年の今頃は男子四人で演技がむずいだの渇望ってなんだだのって話したりしててさ。ゴールデンウィークなんてほとんどそんな話で時間潰してさ……なのに、俺はいつからサボり魔になっちったんだろうって……」


「……」


 寂しげな大槻の声に、増倉は黙った。

 あのとき、そんなことを考えていたのか。


「……じゃあ、これは懺悔のつもり?」


「いや、これは抗いだ」


「抗い?」


「話している中で田島が言ったんだ。中途半端に後悔するぐらいなら一生の後悔をって」


「なにそれ。一年生に感化されたの?」


「ああ、そうだよ。そんでここに立てている。後悔する一秒前まで抗うって決めたから」


「そっか。それでここにいるのね……分かった。じゃあ私からの質問」


 大槻の言葉を聞いて、増倉は何を分かったのか。

 覚悟か決意か。

 真剣な表情で増倉は投げかけた。


「大槻は、みんなをどう思っている?」


 俺は、その質問の意図が読めなかった。

 単純な質問のように感じていた。

 けど、横にいる大槻が答えない。

 増倉が続ける。


「私はね。部活が好きでみんなを大切に思っているって言える。もちろん大槻のこともね。サボることはよくないし困ることもあったけど、でも私はみんなといることが楽しい」


「……」


「大槻は? どう?」


「……俺は、正直部活を退屈だって思う時があった。椎名とお前が揉めるときはめんどくせぇって思っていたし、真剣過ぎるときはいつだって苦手だ」


「それが灰色の退屈?」


「いや違う。俺がお前らと向き合ってこなかっただけの話だ」


「じゃあ、どうして抗うの? 部活が退屈ならどうして? 変化が怖い? それとも引き留められたから?」


「違う」


 きっぱりと大槻は否定した。

 増倉の目を見て、大槻は反論する。


「確かにサボるぐらいなら辞めればいい。その通りだと思う。けど、俺は……俺も部活が好きだから。退屈って思うときもあったけど、それ以上にみんなと部活して劇やって楽しかったから、だから! 俺は辞めたくないんだ……」


「……」


「俺は確かにお前や椎名に呆れてた。だけど反面もし二人みたいな真剣さが俺にも合ったら灰色の退屈なんて感じないんじゃないかって羨ましかったりもした。夏村の演技に惹かれて、樫田の統率力も杉野の心を刺すそうな言葉も山路の自分を曲げない飄々とした性格も、全部全部俺にないものだって尊敬した……だから俺はみんなが認めてくれるなら許してくれるならもう一度部活をしたいんだ」


 大槻の嘆きを増倉はじっと見ていた。

 その目には哀れみはなく、ただただ何かを慮る。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「その気持ちがあるなら、私から聞くことはないよ」


「それって」


「納得したってこと」


「! ありがとう!」


「……正直そこまで素直に話してくれると思ってなかった。偶然とはいえ一年生と会えたことが効いたんだね」


「ああそうだろうな」


 そう言って大槻と増倉は笑顔になった。

 どうやら、無事に納得してくれたようだ。


「こっからだよ。頑張って」


 最後に増倉はそう言い残した。


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