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日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた  作者: 溝野 重賀
第3章 揉める部活と失恋大騒動

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EX7 冷めた中、炎天下の外

 皆が部屋を出た後、すぐだった。


「秀明は行かなくていいの?」


 佐恵がそんなことを聞いてきた。

 俺は伝票を見て値段を確認する。

 うぇ。

 意外と高かった。金あったっけ。

 痺れを切らしたのか、語気を強めにして再び佐恵が言う。


「秀明」


「大丈夫だよ」


「何が?」


「佐恵がここにいる時点で、決着はつかない」


「……」


 俺の言葉の意味を理解したのだろう佐恵はそれ以上追及しなかった。

 そう。今回のことは大槻と佐恵の問題でもある。

 どんなに他のみんなで話そうと、佐恵の意見なく事は決着しないのだ。


「でも…………例えば、大槻が部活を辞めるって言いだしたら?」


「それこそ俺の領分じゃない」


「じゃあ誰の領分?」


「杉野だよ」


「荷が重すぎじゃない?」


「だろうな」


「じゃあ何で」


「言ったろ。考えの基準は部活だって」


「どういう意味?」


 そう聞きながら佐恵は立ち上がり、俺の横に来て腰掛ける。

 さっきまで杉野がいたところだ。


「これからは一人一人の主体的な行動が大切ってことで」


「それだけ?」


「まさか」


 俺が笑うと佐恵がぎろりと睨んできた。

 はいはい。ちゃんと説明しますよ。


「正直さ、今回のこと遅くても春大会までには起こるだろうなとは思ってた……大槻じゃ佐恵の納得する言葉は出ないだろうからな」


「……そうね」


「まぁここまで大事になるとは思ってなかったけど」


「それはタイミング」


「そうだな。歓迎会の時にしなくてもいいよなぁ」


「それで? どうして杉野の領分なの?」


「俺は司会者ではあるけど、統率者でも指導者でもない」


「杉野が統率者?」


 佐恵はイメージが付かないといった様子だった。

 そりゃそうだ。まとめるだけだったら椎名や俺のイメージだろう。


 だが、俺は知っている。

 杉野にしかない能力を。


「あいつがたまに人の心を動かす言葉を吐くは周知の事実だろ」


「うん」


「先輩たちが引退した時、俺たちの代が部活の主体となった時、杉野の言葉は良くも悪くも場を引っ掻き回すだろう。誰が部長になってもな」


「それは……」


「だから俺は杉野に自覚してほしい」


「自覚?」


「そう。自分がどれだけ影響力を持っているか」


「それが、杉野の領分?」


「ああ、俺が説得力を持つなら杉野は求心力を持つからな」


「求心力」


 佐恵はそこの部分だけを呟いた。

 ああそうだ。俺が論理的なら杉野は感情的だ。


 あいつの一挙手一投足が周りに影響を与えるだろう。

 それは言葉だけじゃない。ふとしたときにする自然な何かが心を響かせる。


 すごいやつさ。


 そう思うと、なぜか胸の奥が騒めく。

 嫌だねぇと、俺は自分の嫉妬心を自覚する。


 きっと俺が大槻と話して説得することができたとしても、それは変化ではなく現状維持だ。

 成長をもたらすためには杉野が動くのが一番だろう。


「秀明」


「ん?」


「例え杉野の求心力がどうであれ、私はあなたの説得に救われた」


「……別に救ったわけじゃないよ」


「そう、でも私は救われた。だから秀明が自分を卑下するのは嫌い」


「…………」


 佐恵がこっちを直視してくるのを感じた。

 俺は目を合わせない。

 合わせられない。


 俺は自分が嫌いだ。


 そしてそんな自分に好意を持つ奴も、嫌いだ。


 もしかしたら自分はすごい奴なのかもしれないと思うから。

 才能なんて欠片もない凡人が高望みをしてしまうから。


 だから、全部他人に任せて舞台袖から見ている程度が丁度いい。

 胸の痛みが暴れ出す前に、話を変えた。


「さてと、じゃあ俺たちも行きますか」


「……秀明」


「別に俺が何もしないってわけじゃないさ。俺は俺の役割を果たすよ」


「人に役割なんてない。人は生きたいように生きればいい」


「そりゃいいな、最高だ」


「少なくても杉野は大槻と部活をしたいっていう自分を貫いている。役割で行動なんてしてない」


「……ああ、そうだな」


 佐恵の言う通りだ。杉野は役割なんて気にしない。

 自分のしたいことをしている。

 そして周りもそれを許容している。

 誰も不快にすることなく。

 でも――。


「それでも俺は俺のすべきことを果たすよ」


 俺は立ち上がり、伝票を持った。


 誰もが自分の意志で行動できるわけではない。

 弱者はいつだって臆病で一歩が踏み出せない。


「そう。なら私は私のしたいことをする」


「ああ、是非そうしてくれ」


 そうして俺たちも部屋を出た。


 会計を済まし外に出る。


 太陽が燦燦と輝いて、灼熱の暑さを感じさせる。


「暑い」


「そうだな」


「そこのコンビニでアイス買う」


「おいおい、みんなを追わなくていいのか?」


「私がいないと決着つかないんでしょ?」


「そりゃそうだが……」


 俺の不安を気にせず、佐恵がコンビニへと向かう。

 したいことってこういうことですか?


「ねぇ」


「ん?」


「これからどうなるの?」


「…………」


 その抽象的な質問には、不安が混じっているのを感じた。


 これから、か。


 俺が答える前に、コンビニに入る。

 コンビニの中は外とは違う世界かのように涼しく心地よかった。

 アイスコーナーに向かいながら、俺は佐恵の背中を見る。


「どうなるもないんじゃないか? 俺たちらしくグダグダと何かになってくだけだよ」


「何かって?」


「十年後笑えるような青春か、死ぬ時まで思い悩む後悔か」


「そんなかっこいいものになれる?」


「さぁな。でも不安になるよりは楽しむぐらいでいいんじゃないか」


 アイスコーナーにつくと、佐恵はモナカアイスを迷わずに二つ選ぶ。

 そして俺に渡してきた。


「なら、秀明も楽しんで」


「……俺も楽しんでいるよ」


 アイスを受け取る。ひんやりとした感覚が手に広がる。

 そして、佐恵が悲しそうに俺を見る。


「大丈夫だよ。俺は今の波乱万丈を楽しんでいるよ」


「……そう、じゃあ一緒に楽しもう」


「ああ、そうだな」


 俺たちはレジへ向かった。

 会計をして外へと出る。

 また灼熱の暑さが襲う。

 俺は買ったモナカアイスを一つ佐恵に渡す。


「ん。で、どこに行けばいいの?」


「山路はあの公園に大槻がいたって言ってたけどどうだろ。そういえば連絡来てないな」


「公園向かう?」


「そうだな」


 俺たちは炎天下の中、アイスを食べながら公園へと向かった。


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