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日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた  作者: 溝野 重賀


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第2話 だいたい部活をサボるやつが一人はいる

「なんなのよ、もう!」


 俺が着替え終わり教室に戻ると、椎名が声を荒げていた。

 一瞬、俺のことを怒ったのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。


 椎名、増倉、樫田そして、いつのまにか増えていた夏村佐恵(なつむらさえ)が教室の中心に集まり、何かを話し合っていた。


 ちなみに、机と椅子は教室の後ろに集められ、部活ができるように、前半分が何もない空間になっている。


 俺は鞄を机の上において、みんなのところへ行く。

 こういうとき、初めに聞くのは樫田に限る。


「樫田、どうしたんだよ」


「どうしたもこうしたもないわ!」


 答えたのは憤慨している椎名だった。

 頭の後ろのポニーテールが、感情とシンクロするように左右に揺れていた。

 しかし怒っているのは椎名だけではなく、増倉や夏村も何やら不機嫌そうだ。


 なんだ? 俺のいない数分に何があった?


山路(やまじ)がバイトで来られないみたいで、大槻(おおつき)が音信不通」


 樫田がスマホ片手に、端的に言った。

 俺はそれで状況を理解する。


「今月入って何度目だっけ……」


「知らないわよ!」


「どっちも十日は超えてるね」


「もはや常習犯」


 俺の感想に、女子たちは辛辣に答える。


 山路徹郎(てつろう)と大槻達樹(たつき)


 俺と同学年の男子部員であり、三部活をサボりがちな二人。

 初めの方は数日に一回ぐらいの休みだったが、この春休みになってからは全くと言っていいほど来ていない。

 まぁ、山路のバイトはまだ分かるけど大槻の音信不通はなぁ。


「劇の決まってない演劇部なんてこんなもんだろ」


 サボり二人に対して唯一肯定的な意見を言う樫田。

 意外だったが言っていること自体は間違ってはいない。

 ひょっとしたらどんな部活にでもある時期かもしれないが、三学期は演劇部にとって倦怠期なのだ。

 無論、発声練習だったり劇の練習をしたりと、演劇の基礎力の向上は毎日やる。

けどそれだけなのだ。運動系の部活は練習試合などがあるかもしれないが演劇部にはそれがない(キャッチボールだけする野球部なんてないだろ?)。

 

 演劇部の大会は自分たちでやる劇の台本を決められる。ただ、春大会に向けて台本を決めようにも、四月に入ってくる新入部員の人数でできる劇が変わってくる。

 故にこの時期は発声練習などの基礎的な事しかしないため、退屈なのだ。

 

 正直言えば、俺もモチベーションはそんなに高くない。


「なにそれ、サボっていい理由なんてないでしょ」


 そんなことを考えていると、椎名が樫田の意見に噛みつく。

 おいおい、言い争いはもう勘弁してくれよ。


「分かってるよ。ただみんなだって今、そこまでやる気ないだろ? あいつらはそれが顕著なだけだ。新入部員が入ってきたら自然と戻ってくるさ」


 樫田は諭すように言った。

 いまいちやる気が出ないのは俺だけではなかったようだ。

 現に女子たちは複雑そうな顔をした。心当たりがあるのだろう。


「言いたいことは分かるけど、なんか現金な話」


 夏村が理解を示しながらもどこか不服そうに言った。

 毎日部活に来ている身としては、素直に納得できないのだろう。


「それはそういうもんだろ。サボっていい理由はないけどサボりたくなるのが人間だ。それに真正面から怒ったってあいつらは余計にサボるぞ」


「だからってサボっていることを黙認しちゃえば、余計にサボりだすよ」


 今度は増倉が樫田に反論を言う。

 意味のあるなしではなく、注意しなければならないことは注意するべきであると。


「注意しないとは言ってない。こうやって確認の連絡は俺がしているだろ……大槻は見てすらないけど。そうじゃなくて、今ここで怒ってもしょうがないって言いたいんだよ」


 樫田は手に持ったスマホをアピールしながら、怒ることの不毛さを説く。

 言っていることは分かる。ここで怒ったところでどうしようもないのだ。

 当の本人たちにこの怒りは届かないし、ただ場の雰囲気を悪くするだけ。


 けれども、それこそ人間というもの、分かっていても抑えられない感情というものがある。


 俺たちは毎日来て部活をしているというのに、彼らが平然とサボっているという理不尽は中々受け入れられないものがある。

 女子たちも俺と同じことを思ったのか口を紡ぐ。しかしその表情は納得いっていない様子だった。

 目に見えないはずの怒りの感情が場を重くしていく。

 見るに見かねて、樫田が自分の意見を翻す。


「いや、その、怒るのはごもっともだとは思うんだがな。それでこの場の雰囲気が悪くなるのは別の問題というか、いつまでも機嫌悪いままじゃ部活にも支障が出るというか……なぁ、杉野!」


 なんとも重い雰囲気漂う場に耐えられなかったのか、俺に話を振ってくる。


 とっさのことに動揺してしまう俺。急に振るなよ!


「え、ああ、まぁそうだな。いない奴の話をしても仕方ないし」


「いないから問題なんだけど」


 ぼそっと夏村が呟く。

 うっ。確かにその通りなんだが。


「それに山路はバイトだし、何もサボっているとは……」


「じゃあ何で大槻から連絡ないの?」


 増倉が率直聞いてくる。

 ううっ。堀下げないでくれよ思いつきなんだから。


「……春休みだし、予定とかあるかもしれないだろ」


「部活より優先する予定って何よ」


 椎名が鋭い目つきでこちらを睨みつけてくる。

 

 うううっ。えーっと、それは。


「……そりゃ、まぁ……りょ、旅行とか……?」


「「「…………」」」」


 誰もが唖然とし、完全に場が沈黙した。


 分かってるよ! そんなことあるわけないって! でも思いつかなかったんだからしょうがないだろ!

 今月に入って十日以上も休んでいるんだ、普通に考えれば旅行のわけがない。


「分かった。悪かった、俺が悪かったよ」


「そうね、私も少しむきになっていたわ、ごめんなさい」


「当人のいないところで揉めても仕方ないしね」


「それより早く部活始めましょ」


 樫田や椎名は素直に謝り、増倉や夏村には気を使われた。

 やめろ! そうやってかわいそうな人を見る目で俺を見るな! あ、そんな露骨に目をそらされても……。

 涙ぐむ俺を横目に、椎名は話を戻した。


「でも、二人がいないと困ることがあるでしょ」


「……部活動紹介でやる劇の台本」


「あー、一年全員の合意の元に決めろって先輩たちに言われてたっけ」


「二年になるための通過儀礼とも言っていたよね」


 言われて俺も思い出す。

 先ほど椎名と増倉が言い争っていた部活動紹介でやる劇について、我が部では一年生のみで行うことが恒例になっている。

 先輩たちは六月にある春大会が終われば引退。俺たちが演劇部の主軸になっていく。そのときの予行演習というわけじゃないが、俺たちのみで部活動紹介でやる劇を完成させなければならない。

 ちなみに去年はコメディ系の劇で笑いが絶えなかった。


「樫田の言う通り、怒ってもどうしようもないのは分かっているわ。でも焦りもあるのよ。四月七日の部活動紹介まで後二週間なのよ。なのに私たちは台本すら決まってない」


「決めようにも男子二人が来ないから、一年全員の合意ができない」


「しかも大槻は音信不通だしね」


 そう、結局のところ、山路と大槻が来ないことで部活が停滞しているのが問題なのだ。

 みんなで何かを決めないといけないとき、誰かが欠ける。たったこれだけのことで物事の結論を出すことができなくなってしまう。

誰もが平等に決定権を持つということは必ずしも良いこととは限らない。

 やる気のない者が一人紛れ込むだけで、物事を前に進めることができなくなってしまう。

 それを不満に思うのは、真面目な者たち。なんとも理不尽な話だ。


「まぁ、なんとかしなきゃだよなぁ」


 思わず口に出していた。

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