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日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた  作者: 溝野 重賀
第5章 過ぎる部活と決意する者たち

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第133話 時間の重さ

「お前ら、まだ話していたのか」


 入ってきた人物は、気だるそうにしながら全体を見渡した。

 少しだけ場の緊迫感が増した。

 現れたのが顧問の小林先生だったから。

 通称コバセン。放任主義を掲げる国語の教師。


「すみませんコバセン。まだまだかかりそうです」


 答えたのは樫田だった。

 コバセンはじっと樫田を見ながら、ため息をついた。


「はぁ、轟から聞いたけど、お前ら一年生の前で喧嘩したんだってな」


「ええ、椎名と増倉が、ですよ」


「問題は誰がじゃないことぐらい分かってんだろ? 未然に防げなかったみんなの責任だ」


「……はい、そうです」


「その様子じゃ、何一つ解決してなさそうだな」


「……」


 コバセンは、俺達の様子や場の雰囲気からそう察した。

 教師だからか大人だからかは分からないが、コバセンは呆れたようだった。


「で、もうすぐ閉校時間だが、いつ終わるんだ?」


 誰でもなく、俺たちみんなにコバセンは問うた。

 しかし俺たちは誰一人として、その答えを持ち合わせていなかった。

 沈黙が二秒も続くとコバセンは再度ため息をついた。


「はぁ、俺は放任主義だが、基本的なことは教えているつもりだ。いつまでに、どれぐらいの量の、何を終わらせる目途は立てるように。終わりがないと人間として締まりが無くなる」


 それは耳にタコができるほど聞いた内容だった。

 少しの苛立ちとそれ以上の自分に対する惨めさが喉を絞める。

 分かり切った正論を前に、何も言えずにいた。


「期限はあります。ただ誰一人として自分の意見を曲げる気がないんです」


 この状況でコバセンと対等に話しているのは樫田だけだった。


「つまるところ、堂々巡りってことだろ」


「別に、話が進んでいないわけじゃありません」


「同じだ椎名。ぱっと見では話が進んでいるようで、その実、同じ問題で躓いている」


「っ!」


 コバセンの言葉に椎名は表情を歪ませる。

 その通りだった。俺達がさっきまで話していたことは結局、ただ一つの問題であった。

 過程が、原因が、感情が。いろんなもので話はいくらでも延ばせるが、問題の解決へと進んでいるわけではなかった。


「まったく……残念だが今日はここまでだ」


「そんな! コバセン! まだ何も」


「じゃあ増倉、このまま話し合ったら解決できるのか?」


「でも、話し合わないと解決しません!」


 増倉の答えに、コバセンは三度目のため息をついた。

 そして面倒くさそうな顔をしながらも提案する。


「分かった。こうしよう」


 場の温度が少し冷めるのを待つかのように、数秒。

 誰もがコバセンに注目したところで口を開いた。


「残りの話し合いは部活の時間を使え。それ以外の時間を使い、全員で話し合うことは禁止する」


「……! 待ってください! そんな時間はありません!」


 すぐに異を唱えたのは樫田だった。

 その様子は明らかに動揺していた。焦りや戸惑いが目に見えて分かった。

 確かにそうだ。もう春大会まで時間がない。これ以上部活の時間を潰すことはできないはずだ。

 だが、コバセンは淡々と樫田に言う。


「それはお前が何とかしろ演(・)出(・)家(・)」


 樫田は苦虫を嚙み潰したような表情になった。

 そんなのお構いなしと言わんばかりに、コバセンは話を進めていく。


「お前たちも高校二年生だ。そろそろ時間が永遠でないことを知れ。物事には優先順位が合って、全てのことが出来ないこと、手に入らないことを実感しろ」


「ですが!」


「樫田。お前はこのまま話し合って、解決すると思うか?」


「そ、れは……」


「その❘躊躇《ためら》いが答えだ」


 樫田が黙るのを確認すると、コバセンは他のみんなへと視線をやった。

 目が合うと量られているような気分だった。


「で、他に反論や質問がある奴はいるか?」


「先生。その約束を守る必要があるんでしょうか?」


「いい質問だ椎名。その時は罰がある」


「……罰ですか?」


「そうだ。約束を破ったら対価があるのは、ガキでも知っている常識だろ?」


 コバセンはにやっと笑う。対照的に椎名は難しい顔をした。

 次に質問したのは増倉だった。


「コバセン、何で部活の時間を使うんですか?」


「簡単な質問だ増倉。今日の部活中に喧嘩して、そして今の時間で何も得られなかったからだ。お前らは時間の重さを蔑ろにしている。それ故の罰だ」


 横暴だと思う反面、それは理にかなっているとも思ってしまう。

 このまま、ただ話し合っても解決へと向かう想像がつかない。

 それなら気持ちを焦らす意味でも、そういった罰は必要なのではないだろうか。


「けど、現状のままじゃ無駄に時間を浪費するだけか…………杉野、次に集まるタイミングはお前が決めろ」


 突然名前が上がり、俺は「え」と驚いた。

 みんなの視線が集まる。


「何で俺が!?」


「だってお前主役だろ。樫田でもいいが、何でもかんでも演出家頼りは良くないしな」


 当たり前かのように、さらっと言うコバセン。

 そりゃ、主役だけど……。


「杉野が次に集まる時を決めること。それまでは稽古に専念しろ」


 釘をさすように、俺を見ながらコバセンはそう指示を出した。

 話が終わろうとしていた時、夏村が質問を投げた。


「コバセン。さっき全員で話し合うことは禁止って言った。個人個人で話す分にはいい?」


「お、いいところに目を付けたな夏村。そうだ。問題ないぞ。けどお前らは全員で話さないと解決しないんだろ?」


「それは、そう」


 コバセンの指摘に頷く夏村。

 そうか、話題に出したりする分には良いのか。


「どのタイミングで集まるかは杉野に任せるが、ちゃんと轟や樫田に話を通すんだぞ」


「はい……」


「よし、そろそろ閉校時間だし、お前ら今日はここまでだ」


 半ば強引だったが、そこで解散になった。

 そのままコバセンに急かされて、俺達は学校を後にするのだった。


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