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日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた  作者: 溝野 重賀
第4章 悩める部活と猛練習

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第93話 覚悟と青春

 俺と増倉が廊下に出ると、樫田と椎名が待っていた。

 まるで状況を察しているかのように、何とも言えない顔をしていた。

 始めに動いたのは増倉だった。


「樫田、ちょっと二人で話したいんだけど」


「……ああ、いいぞ」


 ちらっと俺を見てから樫田は短く答えた。

 それを聞くと、増倉は黙ってみんなのいる教室とは逆の方に歩いて行った。


「じゃ、そういうわけだから。あとはお二人さんで」


 樫田も増倉に続くように、歩き出す。

 俺の横を通る時、一瞬軽く肩に手を置かれた。

 ドンマイ。

 そう言われている気がした。

 触られた肩に謎の重さを感じながら、俺は残った椎名と向き合った。


「杉野、どうだった?」


「なんとなく分かってんだろ」


「ええ、でもあなたの口から聞いてないわ」


 ぶっきらぼうな俺いに対して、椎名は優しい声音だった。

 俺は少し冷静さを取り戻し池本と何を話したかを端的に答えた。

 椎名は聞き終わると、少し考えこんだ。


「そうね。気になる点はいくつかあるけど、一旦ここを離れましょう。気分のいい話ではないでしょう」


「そうだな」


 横の教室では、おそらくみんな昼食をとっているだろう。

 いつすれ違うとも限らない。

 俺達は階段を上り、階を移動した。

 午前授業のためか、もう誰もいなかった。

 遠くから吹奏楽部の練習の音が聞こえる中、椎名は話を進める。


「杉野の話だとおそらく池本は心の重荷が少し取れたと思うけど、現状の問題であるオーディションについては何の解決も出来ていないと」


「……ああ」


「そして杉野はそれを失敗だと思い、実際栞からもそのように言われたと」


「その通りだ」


「当事者であるあなたたち二人がそう感じたなら、そうなんでしょうね……」


 椎名はそれを疑わなかった。

 俺としては、俺と増倉の勘違いである可能性を考えたかった。


 けど現実はそう甘くない。

 だからといってこのままではいられない。

 何かを考え、行動に移さないといけない。

 俺は、さっきの増倉との話の中で気になったことを聞いた。


「そういえば、増倉は椎名の差し金か疑っていたんだが、どういう意味か分かるか?」


「…………」


 椎名は黙った。

 真剣な表情で、何かを考えこんでいるようだった。

 察する。これは分からないのではない。俺に言うかどうかで悩んでいるのだ。

 つまり椎名は増倉の意図を汲み取ったのだ。

 椎名はゆっくりと口を開いた。


「ねぇ杉野。私たちの目的は秋大会で全国に行くことよね?」


「ん? ああ、そうだな」


 質問の意図がよく分からなかった。

 椎名はどこか言いづらそうにしている。


「この春大会が終わって、夏休み、九月を過ぎて十月になればその秋大会だわ」


「椎名?」


「…………」


「私は本気で全国を目指しているわ」


「ああ、そうだな」


「その上で、杉野に聞くわ」


「?」


「池本は初心者で、この春大会に出なかったらどうなると思う?」


「どうなるって…………おい! まさか!」


 俺の脳裏に嫌な想像が浮かぶ。

 全く考えていなかった、これからのこと。


「ええ、全国を目指す私たちにとっては春大会に出なかった初心者を秋大会で使うかしら?」


「それは……」


 俺は言葉が出なかった。

 全国を目指すというなら当然、秋大会は最高のメンバーで挑む必要がある。

 それは裏を返せば、最高でないメンバーは舞台に上がらないということになる。

 ああ、今更になって増倉の質問の意味を理解する。

 オーディションの見方が、重さが、意味が変わる。


「じゃあなにか。もし池本がオーディションで落ちたら、春大会どころか秋大会も出れないってか」


「可能性が高くなるって話よ。ただ、栞はしっかりとその可能性も懸念していたんだわ」


 そうだ。その通りだ。あくまで可能性の話。

 決定したことは何一つないのだ。

 だが。


「いつからだ? いつからそのことを考えていた?」


「…………」


「なぁ椎名! いつからだよ!」


「……オーディションの話を轟先輩から聞いたときに私は考えていたわ。そして、たぶん栞も」


 始めからってことか。

 気づかなかった俺の問題か。

 いや違う。今考えないといけないことは。


「椎名、俺は……いや、俺達はこれからどうするんだ?」


「変わらないわ」


「変わらないって……じゃあ池本はどうなるんだよ」


「……どうもならないわ。彼女は彼女なりに実力を出してその結果を受け入れるしかないの」


 椎名は俺の目を見て、はっきりと言った。

 それは覚悟であり、青春の代償なのかもしれない。

 そうだ。青春とはそういうものではないか。

 俺が中学の時、野球のスタメンになれないやつらから嫉妬され嫌われたのは、なぜだ?


 いつだって誰かは青春の舞台に上がれない。

 けど、けど! そんなのって!


「あんまりだろ……!」


 俺は拳を握っていた。

『けどね。その道に進むってことは、たぶん今の杉野じゃ無理だよ』

 増倉の言葉が耳鳴りのように響いた。

 ちくしょう。

 でも、俺は認められない。

 そんなのが青春なんて認められない!


「納得いかないって顔しているわね」


「ああ、俺はおかしいと思う」


「分かっているの? 私たちの目的を」


「……椎名。お前にはお前の覚悟があるのは分かった。けど、俺にも俺の覚悟があるんだ」


「そう。それは否定しないわ。けど、実際にどうするの? オーディションで誰かは落ちるという現実。そして池本が初心者であるということ……それに杉野自身それに構っている時間はあるの?」


 椎名が上げた問題に対する答えを、俺はまだ持っていない。

 オーディションについても、池本についても、そしてそこに割くことで俺の練習時間が無くなるということ。

 何一つ反論することはできなかった。


「……ちょうど一週間後の今頃はオーディションをしているでしょうね。それまでにすべてを解決できるというの?」



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