エンディング
朝日が昇る頃、レンは緊張で眠れずにいた。王宮の一室では侍女たちが忙しなく動き回っている。
「レン君、今日の儀式は……」
三毛猫獣人カイレンが優雅に手を動かしながら説明する。
「まず儀式の間で誓いを交わし、その後は広間での宴となりますよ」
「はい……」
レンは窓辺に立ち、街を見下ろしていた。
「グレイスも緊張していますか?」
「彼ですか?」
カイレンがくすりと笑う。
「今朝は訓練場で槍を振るっていましたよ。『平常心だ』とか言いながらね」
「そうですか……」
レンは小さく笑った。
「彼らしいですね」
ノックの音がして、牛獣人のハルクが入ってきた。
「おお!レン坊!今日は一段ときれいじゃねぇか!」
ハルクの大声にレンは思わず赤面した。
「ハルクさん!今日はお祝いありがとうございます」
「当たり前だろ!俺たちの大事な英雄の晴れ舞台だからな!」
ハルクはレンの肩を叩いた。
「ところでグレイスのヤツ、昨夜はなかなか眠れなかったらしいぞ。『緊張しているわけではない』って言いながら目が泳いでたぜ」
「グレイスが?」
レンは目を丸くした。
「ああ!あの鬼の副団長ガロウでさえ『団長の動きがいつもよりぎこちない』って言ってたからな!」
ハルクは大声で笑った。
「それにしてもまさかグレイスがあんなに照れるとはな!普段は戦場で鬼みたいな顔してるのに!」
***
荘厳な儀式の間には参列者が集まっていた。王家の代表や重臣たちが最前列に座り、その後ろには騎士団の仲間たちが並ぶ。バスクが小声で「団長、なんか変にかしこまってるぞ」と囁くのが聞こえた。
グレイスは儀式用の鎧を纏い、静かに立ち尽くしている。レンは純白の衣装に身を包み、緊張した面持ちでグレイスの前に立った。
王都の大司教が前に立ち、厳かな声で式の開始を宣言する。「今ここに、ヴァルシオン王国の英雄グレイス・アルヴェインと異世界からの聖者レンの婚礼を執り行う」
グレイスが一歩前に出て、低く響く声で誓った。
「私はレンを生涯愛し続けることを誓う」
レンもまた、震える声で応えた。「私もグレイスを愛し、共に生きることを誓います」
***
儀式の後、広間では盛大な祝宴が開かれた。王都一の料理人たちが腕を振るった豪華な料理が並び、楽団が華やかな曲を奏でる。
「おいおい団長様!こんな時までそんな仏頂面かよ!」
ハルクが酒杯を掲げて大声で叫んだ。
「もっと喜べよ!今日の主役なんだから!」
グレイスは眉間に皺を寄せながらも、いつもの冷徹な表情とは違う柔らかさが見えた。
「黙れ。お前は飲むのだけに集中しろ」
「はっはー!相変わらず素直じゃないな!ほら見ろ!レン坊の方がよっぽど素直に嬉しそうだ!」
ハルクは指差した。
レンはガロウと話している。銀狼のガロウが「団長のあんな幸せそうな顔は初めて見た」と言うと、レンは恥ずかしそうに微笑んだ。
「ガロウ!余計なこと言うな!」
グレイスの声が飛ぶ。
「失礼しました団長」
ガロウは直立不動で応じた。
ハルクは酔いが回り始めたのか、グレイスに近づいた。
「なぁなぁ団長様〜」とわざと甘ったるい声で言う。
「まさかレン坊を泣かせたらどうなるか……わかってるよなぁ?」
「何が言いたい?」
「いやぁ別に?ただな……」
ハルクはグレイスの耳元で囁いた。
「レン坊のこと大切にしてやれよ?あの子はなぁ……お前が思うよりずっと繊細なんだ」
グレイスは黙って頷いた。
「それと〜」
ハルクは突然大声で叫んだ。
「今夜は初夜だろ?団長様ったらどうなるかな〜?あんまり無理させんなよ〜?」
周囲から爆笑と冷やかしの声が上がる。
「ハルク!いい加減にしろ!」
グレイスは顔を赤らめて怒鳴った。
***
宴も終わり、二人は寝室に戻った。レンは緊張して床を見つめている。グレイスも無言で立っていた。
「あの……」
レンが口を開く。
「ハルクさん、本当に楽しそうでしたね」
「まったく……奴はいつも余計なことを言う」
グレイスが溜息をつく。
「でも……嬉しいです。みんなに祝福されて」
レンは顔を上げた。
「グレイスは……幸せですか?」
グレイスは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。
「ああ……とても」
彼はレンの頬に手を添え、そっと口付けた。長い間触れ合った後、グレイスは静かに囁いた。
「お前を守るために強くなった。だが……今はお前が俺を強くしてくれる」
「僕もです」
レンはグレイスの胸に顔を埋めた。
「あなたの側にいられて……幸せです」
二人はそのまま互いを抱きしめ、長く続いた緊張が溶けていくのを感じた。
「これからも……一緒に歩いていきましょう」
レンが呟く。
「ああ……一生だ」
グレイスは力強く答えた。
月明かりが二人を優しく包み込み、新たな人生の始まりを祝福していた。
これにて完結となります。
後半やや駆け足展開になってしまいましたが
無事完結させる事ができました。
ここまで読んで下さった皆様ありがとうございました。
引き続き毛色を変えた次回作を投稿予定です。
宜しければそちらもお付き合い頂けますと幸いです。




