未来へ
戦いの疲労で体は重かったが、心は軽かった。
王都は勝利の喜びに沸いていた。通りには花が舞い、市民たちの歓声が響き渡る。グレイスと共に凱旋パレードの馬車に乗ったレンは、人々の熱狂に少し照れくさそうに微笑んだ。
「おめでとうございます!」
「レン様万歳!」
人々の声援に混じり、「英雄だ!」という声も聞こえる。
パレードが終わり城内に入ると、騎士団の仲間たちが待ち受けていた。
「よくやったぜ!」
「すげぇよレン!」
バスクが駆け寄り、興奮気味に抱きついた。
「おいバスク、離せよ」
ガロウが苦笑しながら引き離す。
彼も無事だった。
「2人とも……良かった……」
レンは安心したように肩の力を抜いた。
***
広間では祝宴が開かれていた。
豪華な料理が並び、音楽が流れている。
「レン」
振り返ると、グレイスが立っていた。熊獣人の彼は静かな佇まいだが、目には温かさがあった。
「少し話がある」
グレイスに連れられて庭に出た。
月明かりが美しい夜だった。
沈黙の後、グレイスが近づき、そっとレンの頬に手を添えた。
「お前の強さは認めるが……あまり無茶をするな」
レンは恥ずかしそうに俯いた。
「……はい」
次の瞬間、グレイスの大きな顔が近づき、唇が触れた。
短い、だが確かな口づけだった。
「なっ!?」
レンの顔が真っ赤になった。
「あっ!団長がキスしてる!」
「見ろよ!グレイスがレン坊にキスしやがったぞ!!」
騒ぎを聞きつけ次々と仲間達が集まってくる
「レンの顔真っ赤だぜ!」
「団長やるなぁ!」
周りから口笛と冷やかしが飛び交う。
「お前ら!見てたのか!?」
グレイスは珍しく焦った様子を見せた。
「いやぁ、二人だけの時間邪魔したか?」
「お幸せに!お二人さん!」
騎士団の面々が笑いながら囃し立てた。
グレイスはレンの手を取った。
「もう行くぞ」
「は、はい……」
照れくさそうなレンと、なぜかいつもより柔らかい表情のグレイスが広間へ戻っていった。
***
数日後、王国は落ち着きを取り戻していた。
しかし全てが終わったわけではなかった。
王宮の一室では緊急会議が開かれていた。
「あの器は危険すぎる!あの力……放置すればいずれ我ら獣人の脅威となる」
保守派の貴族が声を上げる。
「何を言うか!レン殿のおかげで我々は救われたのだ!」
英雄視派の武官が反論する。
レンの存在は未だ波紋を投げかけていた。
市場では「あの異人は敵だ」と囁く者もいれば、「英雄レン様」と崇める者もいる。
「やはり……」
レンは窓から外を見つめながら呟いた。
「難しいですね」
隣に立つグレイスが静かに答える。
「ああ。だがお前は既に英雄だ。それだけは変えられない事実だ」
「でも……怖がられるのは……やっぱり……」
レンの声が小さくなる。
「焦る必要はない」
グレイスが大きな手をレンの肩に置いた。
「時はかかるだろう。だが我々の使命は変わらない。この国を守り、未来を築くことだ」
「未来……」
レンは考え込むように空を見上げた。
「そうだ。我々と共に進めばいい」
グレイスが続けた。
「お前には……」
彼は少し照れくさそうに言葉を選んだ。
「俺と……騎士団がついている」
レンは微笑んだ。
「ありがとうございます。グレイス団長」
「……団長ではなく……」
グレイスが珍しく躊躇いがちに言った。
「グレイスと呼べ」
「はい……グレイス」
レンは恥ずかしそうに名前を呼んだ。
二人は静かに並んで立ち、新しい日々を見つめていた。
『君が決めればいいんじゃないかな』
彼の残した言葉通り、この先の道はレンが自分で切り拓いていくしかない。
困難は続くだろう。誤解や偏見との戦いも。
だが今のレンは一人ではない。
信頼できる仲間、そしてグレイスがいる。
それだけで十分だった。
窓の外では朝日が昇り始めていた。
新たな一日の始まりを告げるように。
レンの物語もまた、これから続いていく。
次回最終話となります




