迫る決戦
「レン……おいレン!」
ガロウの声で目が覚めた。
天井の模様がぼんやりと見える。
「ん……ガロウさん?」
「よかった!意識が戻ったか!」
レンの周囲には心配そうな顔で囲む仲間たち。カイレンが包帯を替え、ニーナが涙目で手を握っている。
「もう大丈夫だよ」
カイレンが微笑んだ。
「君の治癒スキルと私達の治療術が……うまく噛み合ったみたいだ」
「どうして……僕がここに?」
記憶が曖昧だった。
「いつまでも起きてこないから心配して見に行ったら、お前容体が急変してな……」
ガロウが説明する。
「お前は半日以上も寝ていたぞ」
部屋の隅から小さな声が聞こえた。
「……よく生き延びたな」
バスクだ。壁にもたれかかりながらも、口調には安堵の色が見える。
「みんな……ありがとう」
レンが起き上がろうとすると、カイレンが制止した。
「ダメダメ!まだ安静にしてないと」
その時—
「レン!」
ドアが勢いよく開き、グレイスが現れた。汗にまみれ、鎧も傷だらけだ。
「無事か?」
大股でベッドに近づくグレイス。巨漢が息を切らしている姿は珍しい。
「はい……グレイスさんこそ……」
レンは彼の傷に気づく。
「怪我をしてるじゃないですか!」
「些細なものだ」
グレイスは強引にレンの手を握った。その手は震えていた。
「お前が目覚めて本当によかった……」
***
「さっき奴が俺の前に現れて宣戦布告をして来た」
グレイスがレンのベッドサイドに座る。
「奴は明日、魔王龍を呼び出すと宣言している。場所は……王都北東の荒野だ」
部屋が静まり返った。
「魔王龍……?」
レンの声が震える。
「ドラゴンの中でも最上位の存在だ」
カイレンが深刻な表情で言う。
「一匹で国を滅ぼせる……」
「なぜそんなものを……?」
「お前を試すためだろう」
グレイスが答えた。
「だが今は休め。明日の決戦に備えて……」
「明日……」
レンは拳を握りしめた。「明日……決着をつけるんですね」
***
深夜
レンは一人、窓辺に立っていた。
「バケモノ…か」
窓に映る自分の顔を見る。以前より精悍になったが、その目には深い疲労が刻まれていた。
「人間兵器……ガチャから……出てきた」
ドラゴンとの戦いで得たスキルが体の中で蠢いているのを感じる。
コンコン
「レン君……起きてる?」
ドア越しにカイレンの声がした。
「はい」
扉が開き、カイレンが入ってきた。湯気の立つカップを二つ持っている。
「眠れないなら……これを」
甘い香りが漂う。
「ありがとうございます……」
二人でベッドの端に腰掛け、静かに飲み物を飲む。
「あの戦いで……多くの人が亡くなった」
カイレンがぽつりと呟いた。
「でも君は彼らの意志を受け継いでる」
「僕は……ただの死神か人間兵器なのかもしれません」
「それは違う」
カイレンがきっぱりと言った。
「君は君だよ。ただ……少し特別な力を持ってるだけ」
レンはカップの中を見つめた。
そこに映る自分の顔が揺れている。
「カイレンさん……」
勇気を出して尋ねた。
「もし僕が……最初から作り物だったら……それでも僕は僕ですか?」
カイレンは真剣な眼差しでレンを見た。
「僕が小さい頃から好きな話をしようか」
くるくるっと指を回しながらカイレンが話し始める。
『昔々、世界がまだ若かったころ。
大地を司る神は、寂しさに耐えかねて、手のひらの泥でひとつの人形を作った。
形は人に似ていたが、命はなく、風に吹かれれば崩れ落ちる儚いものだった。
それを見た風の精が言った。
「かわいそうに。せっかく造られたのに、動けぬとは。」
大地の神はうなずいた。
「私には“命”を宿す力がない。だから動けぬのだ。」
すると風の精は、その胸に自らの息を吹きこんだ。
人形は目を開き、風に揺れながら立ち上がった。
だがその身体はまだ泥でできており、雨が降れば溶けてしまう。
風の精は言った。
「お前の身体はいつか崩れる。でも、お前の中を流れる“風”は私の命だ。
それが吹くかぎり、お前は動き、考え、感じることができる。」
泥の人形は旅をした。
花を踏み、鳥と語り、時に人に笑われながらも、たくさんの出会いを重ねた。
ある日、旅の果てに嵐がきて、彼の身体はついに崩れ落ちた。
けれどそのとき、彼の胸から吹き出した風は世界を包み、
花々を揺らし、人々の頬を撫で、誰もが思わず微笑んだという。
風の精は静かに呟いた。
「ほら、見ろ。あの子はもうただの泥ではない。
誰かの心を動かした――それこそが“生きた証”なのだ。」』
ふうっ、と息を吐き出しレンを見つめる。
「神に作られた泥の人形は、風を宿して初めて“生きた”と言うんだ。
けどね、僕はこう思うんだ。
――大切なのはその人形自身が、誰かを想い、誰かを笑わせようとした“心”なんだ。
だから、君が悩む必要なんてない。
金属でも、泥でも、例え創られたものでも。
誰かの胸に風を起こせるなら、それが“生きている”ってことなんだよ」
カイレンはレンの肩にポンと手を乗せニッパっと笑った。
「僕は君に風を感じてる」
レンはその言葉を胸に刻んだ。




