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詐称

舞い上がる粉塵の中、グレイスがゆっくりとレンの元へ歩み寄った。床に蹲り震える肩に大きな手が置かれる。


「怪我はないか」


「は……はい……」


顔を上げたレンの目に映ったのは、破片を慎重に拾い集めるグレイスの姿だった。

欠片から発せられる残留魔力を探っているのだ。やがて目を開いたグレイスは低く唸った。


「やはりか……」


「やっぱりって……何がですか?」


レンが尋ねると同時、牛獣人のハルクが腕を組んで口を開いた。


「おいグレイス。お前まさか……コイツのこと全部わかってて連れてきたわけじゃねぇよな?」


「全てではない。ただ可能性は感じていた」


短く答えるグレイス。ハルクは呆れたような感嘆のような長い溜息をついた。


「ハァァ〜……つくづくお前には敵わねぇなぁ。それにしても砕けちまったから何のスキルかはわからずか」

ハルクは苦笑いした。


グレイスが首を振る

「いや、残存魔力を『視』た。治癒系統は確定だ。後は武具に関するものだ」


「2つぅ⁈」

どひゃーっとオーバーリアクションで驚くハルク


「少なくとも…な」


「はぁぁぁ……ま、いいか。で?どうすんだよこのボウズ。普通の冒険者として登録なんてできないぞ」


「無論だ、冒険者にするつもりはない」


頷いたグレイスは突然レンの両肩を掴み真正面から見据えた。


「改めてお前に教えなくてはならないことがある。昨日『器』の事、そしてお前にその片鱗がある事は伝えたな?」


「はい……」


レンの背筋に冷たいものが走った。


「お前の力はやはり特別なものだ、レア以上……おそらくはユニークスキルと呼ばれる書物や口伝でしか残っていない部類のものだ。そしてそれは必ずしも祝福されるわけではない。国に囲われるか研究材料にされるか……最悪の場合制御不能として処分されることもある」


「そんな……」


恐怖に震えるレンの頬をグレイスの硬い指が優しく撫でた。


「心配するな。少なくともお前を害することは決してさせん」


「グレイスさん……」


その言葉には鉄のように重く揺るぎない誓いが籠もっていた。なぜこの人はここまでしてくれるのか……理由はわからないけれど確かに信じられると思った。

一方でハルクは腕を組み渋い顔をしている。


「しっかしどうするよ?このまま隠しておくにも限度があるぜ?」


「鑑定結果は偽装すれば良い」


「偽装ってお前……バレたらタダじゃ済まねぇぞ?」


「バレなければ問題ない」


飄々と言ってのけるグレイスにハルクは再び溜息をついた。


「ったく……お前のその肝の据わりっぷりには感心するわ……まぁ仕方ねぇか」


ハルクはポリポリと頭を掻きながら懐に手を突っ込んだ。

取り出したのは古びた革袋だ。

中から小さな、しかし精巧な作りの銀の指輪が現れる。中央には深い紺色の小さな宝石が嵌め込まれている。


「こいつを使えばいい。『詐称の石』だ」


「詐称の……石?」


レンが首を傾げる。


「ああ。こいつは所持者のスキル情報を『隠蔽』できる代物だ。高位鑑定スキルでも持ってる奴じゃない限り、お前がユニークスキルの『器』だってことはバレねぇ」


「そんな便利なものが……」


「ただしよォ」ハルクはニヤリと笑う。「こんなモンポンポン落ちてるわけじゃねぇ。オレが冒険者時代にダンジョンの奥深くで見つけたお宝中のお宝だ。本来なら相当の値打ちもんだぜ?」


「そんな大事なものを……僕に?」


レンが不安そうに見上げるとハルクは豪快に笑った。


「いいってことよ! お前さんを見てるとどうにも他人事とは思えなくてな。オレたちと同じ……望んでもねぇ力を持っちまって苦労してる奴の顔ってやつだ」


ハルクの赤茶色の瞳が柔らかく細められる。


「遠慮なく使えや。これはお前さんが持っておくべきモンだ」


「ありがとう……ございます」


震える手で指輪を受け取るレン。それをじっと見つめていたグレイスが静かに口を開いた。


「その指輪をつけたら鑑定スキルでは何も引っかからないということだな」


「ああ、少なくとも通常の鑑定ではな。例外は教会の最上位クラスの聖女様やら鑑定司祭とか……国王専属の鑑定師くらいだろうが、そいつらに会うことなんざ滅多にねぇだろ」


そう言ってハルクはレンの前に片膝を着き、レンの左手を持ち上がる。


「ふ、ふぇぇぇ?」

思わず情けない声を上げるレン


「ま!指輪だしな!せっかくだからこういう風に渡した方が大事にしたくなるだろ?」

ニヤッと笑ってレンの薬指に指輪を嵌める

指に通した瞬間に指輪はキュッと縮んでピッタリと収まった


ハルクの戯れ、しかしその瞬間グレイスの中にほんの一瞬だけ奇妙な感覚が生まれたのだ。それはこれまで彼が経験したことのない種類の疼きだった。


(……何だ?この感覚は)


指先が熱くなるような胸の奥底がひりつくような感覚。まるで大切なものを奪われたような錯覚。


(馬鹿な……指輪ごときに私が何を感じている)


彼自身が自分の感情に驚いていた。しかし混乱を表に出すまいと努めて平静を保つ。それがなおさら周囲には誤解を招きそうな雰囲気を醸し出していた。


「……どうした?」


ハルクが怪訝そうに尋ねるとグレイスは咳払いをして誤魔化す。


「何でもない。さてレン行くぞ」

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