魔王軍襲来編3
しばらく沈黙が続いた後、グレイスがぽつりと呟いた。
「お前はすごい奴だ」
「え?」
「最初に会った時のお前とは別人みたいだ。どんどん強くなっていく。きっと……向こうの世界でも将来有望な若者だったんだろうな」
レンは目を伏せた。
確かに元の世界でも運動は得意だった。
でもこんな風に戦ったことなんて一度もない。
それに……
「グレイスさん」
勇気を出して聞いてみた。
「どうして……そんなに優しくしてくれるんですか?」
グレイスの眉が微かに動いた。
そして窓の外を見つめながら言った。
「俺は……ずっと待っていたのかもしれない」
「待っていた?」
「ああ。こんな時代だ。誰かを守るために生きることは尊いが、その想いだけでは届かないこともある」
彼の声には珍しく諦めの色が混じっていた。
「そんな時にお前が現れた。お前存在は……俺にとって希望なんだ」
グレイスが振り返り、レンの目を見つめた。
その瞳には不思議な光が宿っていた。
レンは胸の奥が熱くなるのを感じた。
グレイスさんが……そんな風に思っていてくれたなんて。
「グレイスさん……僕」
その時だった。
ドンドン——!
突然のノック音に二人は振り返った。
「団長! 報告が!」
ガロウの切羽詰まった声が扉越しに聞こえた。
グレイスが立ち上がり扉を開ける。
「どうした」
「西の街道に大規模な魔獣の集団が確認されました! しかも……これまでとは比較にならない数です」
グレイスの表情が険しくなった。
「行くぞ」
「はい」
レンも立ち上がった。
廊下へ出たところで、グレイスが足を止めた。
「レン」
「はい」
「これから先……何があってもお前を守る。だが……お前も自分を大切にしてくれ」
その言葉に込められた想いの深さに、レンは息を飲んだ。
グレイスの大きな手がそっとレンの頭を撫でた。
「お前がここで生きていく意味はある。少なくとも……俺にとってはそうだ」
その言葉に励まされながら、二人は再び戦場へと向かっていくのであった。
西の街道。
すでに激戦が始まっていた。
土煙が上がり、怒号と悲鳴が交錯する中、騎士団と冒険者たちが必死に応戦している。
だが……
「数が多すぎる……!」
バスクが槍を振り回しながら叫んだ。
彼の周りには既に十数体のスパインラットやグラスウルフの屍が転がっていたが、魔獣の波は一向に止まらない。
その時、突然地面が揺れた。
「何か来る……!」
全員が息を呑んだ瞬間、
ズシン——!
大地を割るように巨大な影が現れた。
その姿に誰もが言葉を失った。
「まさか……サンドリザードロード……!?」
バスクの声がかすれる。
砂漠の主とも呼ばれるこの魔獣は、並の冒険者では太刀打ちできない化け物だ。
「まずい……!」
グレイスが大槌を構え直す。
「全員退避! ここは俺が引き受ける!」
だがその命令が響く前に、新たな影が現れた。




