魔王軍襲来編2
想像していた以上に大きく、禍々しい姿をしている。
怖い——本能的な恐怖が背筋を走った。
「落ち着け、レン」
グレイスが肩に手を置いた。
「俺がいる。俺が守る。だからお前は自分のやるべきことをしろ」
「はい……!」
レンは震える手で剣を握りしめた。
戦いが始まった。
冒険者達が正面から魔獣を迎え撃ち、ガロウと他の騎士団員が両翼から挟撃する。
グレイスの大槌が轟音を立ててバジリスクの頭蓋を粉砕した。
ガロウの槍が巧みにスティングホーネットの複眼を射抜く。
そしてレンは……
「くっ……!」
目の前のグラスウルフが跳びかかり、反射的に剣を振るった。
しかし、体が思うように動かない。
剣が宙を切り、逆に腕を噛まれてしまった。
「痛っ……!」
傷口から血が溢れる。
痛みに顔を歪めるレンの目に、更なる魔獣の影が映った。
ブラッドハウラーの赤い瞳がこちらを見据えている。
「レン!」
グレイスの叫び声が聞こえた。
だが、グレイスは別のバジリスクと対峙していてすぐに駆けつけられない。
「どうしよう……!」
焦りの中で記憶が蘇った。
訓練で教わったこと——
『剣聖のスキルは一度発動させれば身体が勝手に動く。信じろ』
レンは深呼吸を一つして目を閉じた。
「……剣聖」
小さく呟いた瞬間、
世界が変わった。
時間の流れが遅くなったように感じられた。
周囲の景色が鮮明に見える。
ブラッドハウラーの動きも、グラスウルフの位置も——
すべてが「分かった」
そして次の瞬間、
レンの体が風のように動き出した。
剣が弧を描き、ブラッドハウラーの首を正確に斬り裂いた。
返す刃でグラスウルフの腹部を貫く。
驚くほどの速度で周囲の魔獣が倒れていく。
グレイスはその光景に目を見張った。
「……あれが『剣聖』か」
だが同時に、レンの表情に微かな変化を感じ取った。
戦いが終わりに近づくにつれ、レンの呼吸が荒くなっていった。
汗が額を伝い、剣を握る手が震え始めている。
「レン!」
戦闘が収束すると同時に、グレイスは駆け寄った。
レンが膝をつきそうになるのを支える。
「大丈夫か?」
「はい……少しだけ疲れただけです」
だがその笑顔はどこか儚げだった。
宿舎に戻った二人はベッドに腰掛けていた。
戦闘の疲労と安堵感が部屋を包む。
「レン」
グレイスの声がいつもより柔らかかった。
「今日のお前は本当にすごかった。見事だったぞ」
「ありがとうございます」
レンは少し照れながら答えた。
「でも……何かがおかしかったんです。最後の方、体が思うように動かなくなって……」
「それはスキルに振り回されているな」
グレイスが冷静に指摘した。
「剣聖は強力なスキルだが、それ故に体への負担も大きい。もっと鍛錬が必要だ」
「はい」
レンは素直に頷いた。




