魔王軍襲来編
グレイスの眉間に深いしわが刻まれていた。
王宮の執務室で、彼はガロウからの報告に耳を傾けていた。
「各地で突如として魔獣が出現。その数と規模は尋常ではありません」
ガロウの声には珍しく緊張感があった。
「さらに奇妙なことに、これらの魔獣は通常の生態系からは逸脱した行動を取っています。まるで……何者かに統率されているかのように」
「智樹め……」
グレイスは拳を机に叩きつけた。
「あの男の言っていた『魔王軍襲来編』か、魔王とはまた大きく出たものだな」
コンコン——
扉が控えめにノックされた。
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのはレンだった。
彼の顔には不安の色が浮かんでいた。
「レン……お前も聞いたのか」
「はい、冒険者ギルドで警報が発令されました。各地に魔物と魔獣が出没して住民が危険に晒されています……それに……」
レンが一瞬躊躇した後、続けた。
「僕のせいで……この騒動が起きているのでしょうか?」
グレイスの表情が厳しくなった。
「違う。レンのせいではない」
ガロウも頷いた。
「団長の言う通りだ。あの智樹とかいう男の仕業だろう。レンは被害者だ」
しかしレンの心には深い罪悪感があった。
自分が異世界に来たことで、このような混乱を招いてしまったのではないか……
そんな思いが頭から離れなかった。
「俺たち騎士団が全力で食い止める。それが使命だ」
グレイスが立ち上がり言った。
「レン、お前はどうする?」
レンは目を閉じて考えた。
今の自分には何ができるのだろうか?
まだこの世界に来て日が浅い。けれど、ここには大切な人々ができた。
それに……グレイスさんの言葉が胸に響いていた。
『お前が守りたいものを守れ。それが俺たち騎士団の使命でもある』
「……僕も同行させてください」
レンは決意を込めて言った。
「僕にできることがあるなら、戦います」
グレイスの目が僅かに緩んだ。
「いいだろう。ただし、無理はするな。まだスキルも十分に使いこなせていないはずだ」
「はい……でも何かあっても治癒がありますから」
そう言って微笑むレンの表情には、微かな自嘲も含まれていた。
———その夜
町外れに不気味な黒い渦が次々と現れた。
それぞれから様々な魔獣が姿を現す。
アースシェル・トータスの巨体が唸りを上げて歩き出し、バジリスクが舌なめずりしながら周囲を見渡す。
「来るぞ……」
グレイスが低く呟いた。
レンは魔獣の群れに息を呑んだ。




