冒険者ギルドにて
石畳を蹴る馬蹄の響きにレンの頭痛が増していく。
緊張と寝不足で足取りもおぼつかない
「あとどれくらいですか……」
「もう着く」
短い言葉の通り巨大な木製の建物の前で止まった。
掲げられた看板には「冒険者ギルド」と刻まれている。
「こっちだ」
グレイスは正門には向かわず建物の側面へ回った。古びた木製の扉に鍵を差し込むと金属の擦れる音と共に解錠される。
「え……勝手に入って大丈夫なんですか?」
「問題ない」
扉を押すと埃っぽい廊下が延びており奥に灯りが見えた。
「おい!いるか!」
野太い声が響くと同時に灯りの下で影が動いた。
「なんだよ朝っぱらから騒々しいなぁ」
姿を見せたのは牛獣人の大男だった。肩までの赤茶色の毛に角は湾曲している。
「……おっとそっちのが例の客人か」
「レンだ。詳細は省くがスキル鑑定を頼みたい」
「はぁ?こんな朝っぱらにか?それなら昨日言っとけよ!」
文句を言いながらもハルクは奥の部屋へ二人を案内した。そこには円形の台座があり中央に古い青銅色の水晶が置かれている。
「これが『見通しの水晶』ってやつだ。これに触れるとスキルが表示される。まあ単純なモンだけどよ」
レンが恐る恐る手を伸ばすとハルクが注意した。
「あーちょっと待て!念のため言っておくけど……
万が一強力なスキル持ってる奴が触れると水晶が割れるらしいぜ」
「……はい?」
「ダハハッ!冗談だ!冗談!そこの堅物野郎が昨日ごちゃごちゃ言ってたからついな」
バンバンと背中を叩かれる、よろめくどころか気を抜けば吹き飛ばされそうだ。
「おい!グレイス!まずはお手本見せてやれよ」
グレイスは無言で水晶を見つめている。
それから静かに片手を最小に当てる。
水晶が強い輝きを放つ
やがて光は淡いものに変わると水晶に2つ金色の文字が浮かび上がっていた。
『守護者』 『心眼』
「どうだ?凄いだろう」
ガハハとハルクが笑う
「普通スキルなんざ1個ありゃあ御の字よ、それが2つあってどっちもレアもの時たもんだ!」
そして顔をこちらに近づけて声を潜めて話す
「特に厄介なのは『心眼』ってやつだ、相手の動きを見切ったり戦闘は勿論、相手のスキルの有無ぐらいならわかっちまう。しっかも!相手が嘘ついてるかどうかもバレちまうんだ!あれのせいで何度痛い目見た事か!」
ちょっと後半は鼻息荒く話すハルクに
「……おい、もう充分だろう」
そう冷たく言い放つグレイス
叱られた子供のように舌を出してレンから離れる
「じゃあ……行きますよ」
今度はレンが深呼吸して指先を水晶に触れる。冷たく滑らかな感触—次の瞬間淡い青白い光が溢れ出した。
「おっ始まったな!」
興味津々で見守るハルク。しかし光は徐々に強く大きくなりやがて室内全体を照らすほどに膨張した。
「ちょっ……なんかおかしくねぇかこれ!」
「っ!」
咄嗟にレンを突き飛ばすグレイス。直後パキィンという鋭い音と共に水晶が砕け散った。
破片が床に飛び散り粉塵が舞う。
「わぁぁ!!」
尻餅をついたレンは慌てて床に散らばる欠片を拾い集める。
「ごめんなさい……ごめんなさい!まさか割れるなんて!」
涙目で必死に謝るレンにハルクが困ったように笑った。
「いや……別にいいけどよ。実はコレ古くて最近調子悪かったんだわ。ちょうど新しいヤツ入れようと思っててな」
「本当……ですか?」
「もちろんよ!」
大きく肩をすくめるハルク。
一方グレイスは無言で破片を見つめていた。その金の瞳には確信めいた光が宿っていた。




