謁見
王の執務室。広い部屋に敷かれた赤絨毯の上に、グレイスとレンが平伏していた。玉座に座る王ヴィクトール・ヴァルシオン——巨大な虎の獣人。その眼光は鋭く、巨躯に纏う王衣が威厳を際立たせている。
「今回の作戦報告を受け取った。魔獣撃退と医療隊の功績は見事なものだ」
王の声が広間に響く。低いが芯のある声だ。
「だが一点……不可解な報告がある」
グレイスの背筋が緊張で硬くなる。レンは固く拳を握りしめた。
「『一人の人間の少年が負傷兵を全員治癒し』『単騎で魔獣を撃退した』という内容だ」
貴族たちがざわつく。
「王!これは重大な報告漏れではありませんか!」
「前回バジリクスの時に隠し事をしていたのだろう!不敬にも程がある!申し立てはあるのだろうな⁈」
貴族たちの非難が飛ぶ。その視線はレンとグレイスを射抜く。
「申し訳ごさいません」
グレイスが深々と頭を下げる。レンも続く。
「……彼には『治癒能力』がありましたが、能力に不明な部分が多く詳細を伏せておりました」
嘘ではない。が、本当でもない。
「また、以前聖女様の護衛を務めた際。聖女様の『神目』により、レンには『完全なる治癒』と『剣聖』そして『神器』なるユニークスキルが備わっている事が判明しました」
王が片眉を吊り上げる。
「ユニークスキルが三つだと……?」
「はい。しかし、レンはその力をどれも使いこなせておらず……私も確証が持てず、見極めることを優先した為、御報告が遅れました」
「何を適当な事を!!」
「ならばその人間の少年――」
貴族達から鋭い視線がレンに向けられる。
「その力は我が国の宝となる。即刻王家預かりとすべき」
「待て」
突如、轟くような声が貴族たちの議論を遮った。声の主は王――ヴィクトール自身だった。
「この人間の少年は第三師団長グレイスの管轄下にある。戦場での判断と能力は戦時における最高責任者の権限だ」
重々しい宣言。玉座に肘をつき、金色の瞳で会議室を見渡す。
「異論ある者は挙手せよ」
数秒の沈黙。貴族たちの顔に動揺が走る。誰も手を挙げない。
「……決まりだ」
王が立ち上がり、巨躯を揺らして歩み寄る。レンの前で止まった
「人間の少年よ」
王の声は威厳と同時に――どこか人間的な柔らかさを帯びていた。
「我が国の民を救い、戦場で奮戦したお前に報奨を与える。望みを申せ」
「ぼ…私の望みは――」
レンは息を呑んだ。頭の中が真っ白になる。
「……私の力で人々を助けられる環境と……これからも騎士団と共に過ごすことでございます」
「なるほど」
王が微笑む。巨躯を揺らして笑い声を立てた。
「欲のない若造だ。……だが結構」
そして王は一同に向かって宣言する
「この人間の少年とグレイスに報酬と名誉を与えよう」
玉座に戻ると重々しく告げる
「この戦勝は我が国の騎士団及び協力した冒険者達の手柄である」
その後は形式的なやり取りが続きやがて解放された
謁見の間を出た二人。長い廊下に足音だけが響く。レンは俯き加減だ。
「ごめんなさい……僕のせいで皆さんに迷惑をかけてしまって」
グレイスが大きな手でレンの肩を叩く。力強いが優しい仕草だ。
「お前のせいじゃない」
低い声が廊下に落ちる。
「だが……これで貴族共が本格的に動いてくるだろうな」
レンは唇を噛んだ。これから何が始まるのか――不安が胸を締め付ける。
グレイスの拳がわずかに震える。獣の本能が警鐘を鳴らしていた。
王の温情は本物だったのか? それとも何か裏があるのか?
いずれにせよ、嵐の前の静けさだった。




