新たな任務
朝靄の漂う王城広場。磨かれた鎧を纏う騎士団の隊列が整然と並ぶ。その最前列には凛とした佇まいの熊獣人——グレイス・アルヴェインの姿があった。
「北方山岳地帯の集落群を襲撃するアイアンオーガの群れ……推定規模は三十五体か。厄介だな」
副官ガロウが報告書を読み上げ終えると、グレイスは険しい表情で頷いた。
「通常なら一個大隊規模だが、山岳地帯という地形とアイアンオーガの特性上、冒険者との共同作戦が最善だ。ハルクを通じて適任者を選抜済みとのこと。医療班も同行する」
その視線の先には、馬車の荷台で忙しなく薬草を袋詰めする少年の姿があった。人間の青年——レンだ。彼はグレイスの指示で急遽呼び出され、治療院の責任者カイレン・オストラッドの助手として派遣されることになった。
「レン君。今回の任務は危険を伴います。主に傷病者の搬送と初期治療をお願いしますが……あなたの『特別な力』も必要になるかもしれません」
カイレンがレンの肩に手を置く。
三毛猫獣人の医師は優しく微笑んだが、その目はレンの奥底にある何かを見通しているようだった。
レンは無言で頷いた。
彼はまだ自らの持つユニークスキル『完全なる治癒』のことを完全には理解していなかった。
しかし王都で怪我をした冒険者たちを癒してきた経験が、この異世界での彼大きな自信となっていた。
「レン君、怖がらなくていいんです。グレイスやガロウ副団長がいれば我々は負けません。それに……」
カイレンは周囲を見回した。
「今日は頼もしい戦友が加わりますよ」
まさにその時、広場の一角がざわめいた。冒険者ギルドから派遣された一行が到着したのだ。
ハルク・ドレヴァン——冒険者ギルドの偉大なマスターは巨体を揺らしながら笑った。
「グレイス!そしてレン坊!聞いたぜ?治療院で大活躍だってな!」
牛獣人の豪快な声が広場に響き渡る。彼はレンの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「おいおい、照れるなよ!お前はもう王都の癒しの天使だからな!」
ピクッとグレイスの耳が動く
レンも慌てた様子で
「て、天使…⁈僕がですか⁈」
「そうだ!お前さんの笑顔や必死に治癒する噂は冒険者界隈じゃ知らない奴はモグリ扱いだ!今回一緒に来る連中もお前に助けられた奴等が多いぞ!」
「いやいや!僕は基本的な治癒しか!カイレンさんのお力です!」
「謙遜するなレン坊!まぁそれはそれとして……お前さんにどーーーーしても礼を言いたい奴等がいるんだわ」
ハルクが振り返ると、後ろには精悍な顔つきの若き冒険者PTが控えていた。その先頭に立つ青年は——以前レンが治療した犬獣人の戦士アーサーだった。彼はレンを見ると、深々と頭を下げた。
「レン殿……今回はご一緒できて光栄です。あの時は本当に命を救っていただき……」
「そんな!僕は何も……アーサーさんが諦めなかったからですよ!」
「いや……カイレン先生とレン殿が無理やり秘薬を使うよう手配してくれたと聞いています。あなたは命の恩人です」
PTの他のメンバーも口々に感謝の言葉を述べる。スキットと呼ばれるネズミ獣人のシーフ、マルーシアという白猫獣人の治癒師、そしてエルフの弓使いギャリット。全員がレンに温かい笑顔を向けていた。
グレイスが咳払いをして間に入る。
「感動の再会は良いが時間が惜しい。目的地までは三日かかる。出発するぞ」




