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訓練を終えた夜。複数の魔獣から聖女護衛の褒美として、普段より少しばかり贅沢な食事と酒が騎士団に振る舞われた。

ガヤガヤと賑わう大食堂では既に何人かがジョッキをぶつけ合い、祝杯をあげている。


「お疲れさん! 任務完了だ!」


「まぁ巡礼は無しになったがなー」


「それを言うな!あんな状況で聖女様には怪我一つ無かったんだ、奇跡じゃねぇか」


「それもこれもレンのおかげだなぁ!」


バンッと背中を叩かれ、レンは器のビールをこぼしそうになる。


「ほら飲め飲め! 今日は特別だからな!」


勧められるままに一口啜ると、強い炭酸とホップの苦味が喉を焼く。

美味しいのかどうかよくわからないが、これが大人の味なのかと思う。

団員達は上機嫌で互いの功績を讃え合う。


「しかし今回の一番の働き者は誰だ?」


「そりゃやっぱ団長だろ!」


「当たり前だろ。魔獣の頭を次々叩き潰したんだぞ!」


「確かに!それにしてもレンと聖女様が川に落ちた時は打首を覚悟したぜ……」


その言葉に皆が一瞬静まり返った後、「まあいいじゃねぇか」と一人が大声で言い放つ。


「とにかく皆無事だったんだからよ! 細かいことは忘れようぜ! さぁ乾杯だ!」


◇ ◇ ◇


宴もたけなわになってくると自然と話題は武勇伝から逸れていく。


「それでよぉ。誰が一番強ぇかって話だが……」


「そりゃ筋肉自慢の俺だろうよ!」


一人の猪獣人が拳を突き上げて言う。ガタイの良さは力強さの証。それがこの騎士団の共通認識だ。


「この筋肉を見ろ!」


腕に血管を浮かせながらポーズをとる団員に周りから拍手と口笛が飛ぶ。


「おいおい待て待て。筋肉なら俺の方がデカいぞ!」


別の牛獣人が袖を捲ると、岩のような上腕筋が現れる。団員たちの視線が釘付けになる。


「おぉー! すげぇ! だが持久力なら俺だろ!」


今度は熊獣人が膝を曲げたり伸ばしたりして筋肉の柔軟性をアピールする。それを見た他の団員も負けじと自分の得意分野を挙げる。


「速さなら俺だ! あの魔獣にも追いつけたんだぞ!」


「いやいや俺は腕力自慢だ!」


話が白熱してきたところで一人がふと提案する。


「よし……誰が一番凄い筋肉かレンに決めてもらおうぜ!」


全員の注目がレンに集中する。突然の指名に思わず咳き込んでしまう。


「え……あの……僕ですか?」


「当たり前だろ! お前最近皆と打ち解けてきたし、ここでジャッジしてもらえば公平だしな!」


「おい待てよ。ただ筋肉比べるだけじゃつまらねぇ」


「そうだ!もっと面白いことしようぜ!」


一人がニヤリと笑って提案する。


「……じゃあ次はコレの大きさで勝負するってのはどうだ?」


その言葉に全員が吹き出し、次いで爆笑が起こった。


「馬鹿野郎! そういうことかよ! 確かにそっちの方が男としての格付けができそうだ!」


「よっしゃ乗った! 誰がデカいか競争だ!」


◇ ◇ ◇


最初は冗談半分だった会話が徐々に下ネタへと傾いていく。テーブルの上では団員達が口々に自慢話を繰り広げ始めた。


「おいレン見てみろ! 俺のってこんなに硬くなるんだぜ!」


「いやいや! 俺なんか見た目も綺麗でバランス取れてるし!」


「硬さなら俺だ! 一度勃ったら2日は収まらん!」


彼らは互いにジョッキを持ち上げながら笑い合っている。その内容にレンは顔を赤らめて俯いた。


「ちょ……みんなやめなよ! 下品すぎるって!」


その反応が逆に面白いのか団員達のテンションがさらに上がる。一人が立ち上がって大声で叫ぶ。


「おいレン! じゃあ試しに誰が一番デカいか見せてみようぜ!」


「えぇっ!? 本気なの!?」


「当たり前だ! 男同士なんだから恥ずかしがることねぇだろ!」


もう誰も止める者はいない。皆楽しそうに笑いながら次のステップへ進もうとしている。普段は真面目なガロウまでもニヤッと笑って提案する。


「レン。誰のチンコが一番か触って確かめてみてくれよ」


「いやいや……ちょっと……」


それを聞いた熊獣人がズボンを下げ始めると周りが一斉に囃し立てた。

レンは咄嗟に手で顔を覆う。


「ダメダメ! こんなの良くないよ!」


焦って立ち上がろうとすると足が絡まって椅子から転げ落ちてしまった。周囲からは笑い声が上がるばかりだ。


「ほらレン。大丈夫か?」


手を差し出してくれたのはガロウだった。真顔だが目の奥には笑みが宿っている。


「なぁレン。本当は興味あるんじゃないか?」


「そ……そんなわけ……」


否定しようとしつつも視線は股間に向かってしまう。それがバレてさらに揶揄われる羽目になった。


「やっぱり気になるんだろ? よし順番に触っていけ!」


一人ずつ前に出てズボンを下ろしていく光景はまさに圧巻だった。その度に歓声や野次が飛び交い会場は最高潮を迎える。


その時突然扉が開いた音とともに鋭い声が響いた。


「貴様ら!!」


ドスン! という衝撃音と共に騎士団長グレイスが姿を現す。彼の額には青筋が浮かび上がり明らかに怒りに満ち溢れていることがわかるほどだ。


「随分と賑やかだが何をしている!」


雷鳴のような怒号が響き渡り一瞬で場内が凍りつく。さっきまでの賑やかな雰囲気が嘘みたいに消え去った。まるで氷漬けになったかのような静寂の中グレイスはゆっくりと前に進み出る。


「レンを困らせているようだがどういうつもりだ?」


団員たちは縮み上がり必死で弁明しようとするも完全に萎縮してしまったのか声にならないようだった。グレイスは深いため息をつきながら一人一人を睨みつけると怒鳴った。


「全員そこに座れ!!」


彼らは素早く整列して正座の姿勢を取った。それを見届けると彼は再び大きく溜息をつく。そして一呼吸置いてから口を開いた。


「お前ら……これはどういうことだ?」


声だけ聞けば穏やかな口調だったがその眼光は鋭く冷たい光を放っている。この圧倒的な存在感は誰にも抗えないほど強く恐ろしいものでありそれ故彼には逆らえないのだった。


その怒りは頂点に達していたようで握りしめた拳がブルブル震えていた。そして次の瞬間にはその拳が団員たちの頭上へ落とされ盛大なげんこつが炸裂したのだ。


「ぐっ!」


一人が苦痛の声をあげて頭を抱える。続いて他の者たちにも次々と鉄拳制裁が下されていった。その様子を見守っていたレンは心配そうな表情を見せたものの何もできなかったのであった。


「まったく……この愚か者共め」


最後の一撃を入れ終わった後呆れ果てた表情を浮かべながら彼は呟いた。


「お前ら……罰として酒は没収するからな」


「そんなぁ……」


泣きそうな声が聞こえてきたもののそれでも構わずに宣言した。


「文句言う奴は飯も抜きだ!」


その言葉に一同が肩を落とす姿を見てグレイスはやっと落ち着いたのかため息混じりに命令した。


「明日から3日間反省しろ!解散!」


その言葉で皆大人しく従ったようである。そして最後に振り向いてレンに向かって言った。


「お前も疲れたろう。部屋まで送ってやる」


そう言って手招きされたので立ち上がって後に続いたところ廊下に出るなり彼は尋ねてきたのだった。


「それで……どう思った?」


「え?あ……あの……凄かったです」


正直な感想だったのでついそのまま答えてしまう。すると彼は「だろうな」と答えた後続けてこう尋ねたのである。


「本当に触りたかったか?」


そう言われた瞬間ドキッとしたものの何とか平静を装いつつ否定しようとしたところ先に彼の方からこう告げられたことで動揺してしまったという次第なのである。


「触りたいなら俺のがあるぞ?」


そう言われた途端急に意識してしまうようになったせいかもしれない。胸の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じつつも平静を装うことに努めたのだった。


「あ……いえ……あの」


辛うじてそう返事をするのが精一杯であった。


「そうか……遠慮することはないぞ?」


優しい口調で言われたことで更に心臓が跳ね上がったようだった。それでも必死に理性を保とうとしていると彼が続けた。


「冗談だ。ほら行くぞ」


そう言って再び歩き出したので安堵しながらついて行ったもののしばらくするとまたしても彼の方から質問が投げかけられたため動揺せずにはいられなくなってしまったのだった。


「ところでさっきのアレだがな」


「はい?」


「……アレに興味はあるのか?」


思わず立ち止まってしまいそうになりながらも平静を取り戻すべく深呼吸してから答えたのである。


「ないです!」


即答したことで逆に不審に思われてしまった可能性もあり得ると思いながらも否定することで誤魔化したつもりであったもののやはりうまく行かなかったようである。なぜならばグレイスが立ち止まってこちらを覗き込むような仕草を見せたからである。その結果視線が合わさってしまったために気まずくなり顔を逸らした隙を狙われたかのように問い詰められてしまったのだ。


「本当か?」


その問いに肯定しようとするも口を開こうとした矢先舌が上手く動かなくなってしまい何も言葉にならなくなってしまったため黙秘を決め込むこととなったのである。しかしそれはかえって逆効果であったようで疑念の念を抱かせることとなってしまったようである。


「……ないこともないです」


小さく答えると意外にも素直に受け入れてくれたことに驚いているうちに再び歩き出してしまっていたのだった。

その後も他愛もない世間話をしながら歩いていたがやがて部屋の前まで来ると彼は立ち止まり手を振りながら別れを告げるのであった。


「じゃあな。よく寝るんだぞ」


そう言うと踵を返して去って行った。その背中が見えなくなるまで見送り続けてから自分の部屋に入った時にはすでに疲れ果てておりベッドへ横たわり目を閉じたが…


(うわあぁぁぁぁぁぁ!)


先程の出来事を思い出してしまい悶々として眠れぬ夜を過ごす羽目になってしまうことになるのだった。

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