レンの独白
その夜、レンは宿舎の自室でベッドに腰掛けながら黙考していた。窓から差し込む月明かりが床に細長い影を落とす。
昼間のゴリラ獣人の怒声がまだ耳にこびりついていた。「人間ごとき」「軟弱」――そんな言葉が重くのしかかる。
(隊長は言った……獣人全てが悪くないって……)
壁際の棚に置かれた剣を見つめる。騎士団から支給された細身の長剣だ。鞘に刻まれた騎士団の紋章が鈍く光っている。
(でも現実は厳しいんだな……)
ふと気づく。今日一日ずっと心の奥底で感じていた違和感。優しく接してくれたグレイスや団員たちの顔が次々と思い浮かぶ一方で――
「なぜ僕は怖がらないんだろう?」
普通なら怯えてもいいはずだ。人間蔑視が日常の世界で騎士団に所属し、しかも幹部であるグレイスの直属となれば、妬みや反感だって当然ある。
なのに不思議と恐怖を感じない。むしろ……少しワクワクしている自分がいる。
(なんでだ?)
疑問はすぐに解決した。
――それは守ってくれる人がいるからだ。そして自分もまた……
「守ろうとしてる」
レンはゆっくりと立ち上がり剣の元へ歩み寄った。
鞘から剣を抜く。
銀色の刃が月光に照らされ静かに輝く。
この剣が初めて自分と共鳴した時を思い出す。
それは森で負傷した団員たちを救おうと必死に剣を振るった時だった。
自分の無力さを呪いながらも「誰かを助けたい」と願った瞬間。
剣聖の力は応えてくれていた
「そうだ……あの時も……訓練の時も……」
思い返せばいつも同じだった。
自分に迫る危機だけでなく、他者のために奮い立った時にこそスキルは呼応した。
剣を握る手に力が入る。
「僕は……弱い」
声が漏れる。
「けど……護りたいんだ」
剣を鞘に戻す音がカチンと響いた。
心の中で何かが決まったような気がした。
この世界で生きていく。たとえ差別があろうとも。
そして――守るべきものを見つけていく。
レンはベッドに戻り仰向けになった。
天井を見上げながら呟く。
「ありがとう……剣聖」
その言葉に応えるように微かに魂が震えた気がした。




