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対話

レンは教会の厳かな玄関口で立ち尽くしていた。重厚な木製扉の上には荘厳な女神像が彫られ、両脇には警備の神官獣人たちが鋭い眼差しを向けている。


「ごめんなさい、今日は聖女様はお出かけ中なんです」


応対した若い人間の神官は申し訳なさそうに頭を下げる。


「また改めてご訪問ください」


門前払いを食らったレンは肩を落としながら街路に出た。


(スキルのこと……もっと知りたいのに……)


ニーナの「神目」なら詳しい情報を得られると思ったが当てが外れた。焦燥感を胸に抱え歩き出すと――


「よう!レンじゃねぇか!」


野太い声と共に巨漢の牛獣人・ハルクが樽のように揺れながら駆け寄ってくる。背後には三毛猫獣人の治癒師カイレンの姿もあった。


「ハルクさん!カイレンさん!」


「なんだお前、浮かない顔だな?」


ハルクが眉をひそめる。


「はい……教会に行っても聖女様に会えなくて……」


「そりゃそうだ」


ハルクが腕を組む。


「聖女様は最近忙しいらしい。王城の式典準備だかで毎日詰めてるって噂だぜ」


「じゃあ……スキルの詳しいことは……」


レンが落胆しかけた時、カイレンが優しく微笑んだ。


「治療院に来ますか?少しならお話できますよ」


***


治療院の一室でハーブ茶を飲みながら三人はテーブルを囲む。


「まず確認しておくぞ」


ハルクが重々しく切り出した。


「お前のスキルは『完全なる治癒』『剣聖』『神器』だな?」


「はい……」


「それだけでも前代未聞だが……」


カイレンがメモ帳を開く。


「特に『神器』が厄介だ。文献には一切記載なし。過去に類似の報告もなし」


レンは拳を握りしめた。


「僕はどうすれば……」


「落ち着け」


ハルクが巨大な掌でポンと机を叩く。


「大事なのはスキルとの“対話”だ」


「対話……ですか?」


「ああ。スキルはただの道具じゃねぇ」


ハルクの目が鋭くなる。


「使いこなすには本質を理解しなきゃならねぇ。例えば俺の『剛力』も最初は制御できなかった」


カイレンが補足する。


「ハルクさんの力は暴走すると建物ごと吹っ飛ばすレベルでしたからね。当時の彼は『なんで俺こんな力持って生まれたんだ!』って暴れてましたよ」


「余計なこと言うな!」


ハルクが顔を赤らめる。

レンは目を丸くする。

あの大男がかつてそんな悩みを抱えていたとは。


「で、どうやって克服したんですか?」


「簡単じゃねぇよ」


ハルクが遠い目をする。


「鍛錬の繰り返し……だが一番効いたのはな……」


彼が真剣な表情でレンを見据えた。


「スキルの“声”に耳を傾けることだ」


「スキルの……声?」


「ああ。俺のはこうさ――『力を恐れるな。己の一部だと認めろ』ってな」


ハルクがニヤリと笑う。


「初めは意味不明だったが……ある日突然わかったんだ。力は俺自身の意志次第で害にも益にもなると」


カイレンが茶碗を傾けながら付け加える。


「スキルは使い手の成長を見極める鏡みたいなものかもしれませんね。適切な時期に必要な情報や感覚を与えてくれる……私の『治癒』スキルもそうです」


「じゃあ……僕のスキルも話してくれるんでしょうか?」


「試してみな」


ハルクが親指を立てる。


「瞑想でも訓練でもいい。心を澄ませば必ず応える」


レンは胸に手を当てた。神器……完全なる治癒……剣聖……それぞれの存在が身体の中で脈打つ感覚がある。


「やってみます」


「それでいい」


ハルクが豪快に笑う。


「お前のスキルはな……お前が信じれば信じるほど強くなる。逆もまた然りだ」


***


治療院からの帰り道、レンはハルクの言葉を噛みしめていた。


「スキルとの対話……か」


過去どんな時にスキルが発動したかを思い出す。

まずは治癒の力、これは自分に対して多分痛いという気持ちに強く反応してた。

後は治療院で冒険者を治した時、あの時は必死で何かをやらなくちゃという気持ちで一杯だった。


(治癒は…優しいんだな…)


スキルに対してそんな事を思うのはおかしいのかもしれない

でもぽわっと胸の中が暖かくなったしがする


(きっと応えてくれたんだ)


少し嬉しい気持ちになる


次はー剣聖は…と考えていた時


ドンっという衝撃で現実に引き戻された

どうやら誰かとぶつかってしまったらしい

なんとか倒れ込みはしなかったものの…


「おいゴラァッ!人間ごときが道の真ん中をフラフラ歩いてるんじゃねえぞ!!」


怒鳴り声にハッとする。

目の前に立ちはだかっていたのは筋骨隆々としたゴリラ獣人の男だった。酒臭い息を撒き散らしながら胸ぐらを掴まれる。


「す、すみません……!」


謝罪しても男は聞く耳を持たない。

「なんだこの軟弱な腕は?獣人の俺様と張り

合おうってか?ええ?」


周囲から好奇の視線が集まり始める。通行人たちが足を止め、囁き合う声が聞こえた。


「また人間が絡まれてるぞ……」


「あれ…レン君じゃない?誰か止めろよ……」


(まずい……!)


身体が竦む。逃げようにも腕をがっちり掴まれている。帯剣もしていないのでこのまま殴られたら治癒を使う間もなく気を失ってしまうかも――


「おい…」


ドスの効いた低い声が声が場を裂いた。

「んあ?」


ゴリラ獣人が首を巡らす。


その視線の先に立っていたのは――鎧を纏った騎士グレイスだった。

巨漢の熊獣人は、その姿を見て一気に酔いが覚めた様で震え上がった。


「俺の部下が何かしたのか?」


ゴリラ獣人は慌ててレンを突き飛ばすようにして解放した。


「へへっ…いや、ついぶつかっちまったもんで怪我でもしてたら大変だなと思いまして…」


彼は震えながら言うとそのまま逃げるように走り去っていく


「すみませんでした隊長……」


レンが謝ると


「怪我はないか?」


グレイスが腕を伸ばしてレンの肩を支える。


「はい……ありがとうございました」


「街中だから良かったが……気をつけろよ」


ゴリラ獣人の態度からしてこの場で騎士団が介入出来るのはここ位までなのだろう

騒ぎになっていた人間たちは散っていく

グレイスはそれを見届けた後「行くぞ」と促し歩き出す。

レンは彼の大きな背中を見つめながら歩調を合わせた。


「人間 ごとき か…」


ショックを受けてつい言葉が漏れてしまう

今まで自分が出会った獣人達は皆優しかった、団員達は兄弟とまで言ってくれた

……

だがそんな優しさは一部に過ぎないのだ

人間と言うだけで暴力を振るってくるのが当たり前の世界

その事を突きつけられた気がして悲しい気持ちになる


「レン」


前を行くグレイスの低い声が響いた。


「この世界の真実は残酷だ」


彼の歩みは止まらない。


「獣人はお前たち人間を……奴隷同然に扱ってきた歴史がある」


レンの胸が締めつけられた。


「だからといってすべての獣人が悪いわけではない。が……現実はこうだ」


グレイスの声に苦渋が滲む。


「お前を受け入れる者もいれば……そうじゃない者も多い。その事実をお前は受け止めなければならない」


レンは唇を噛み締めた。

優しくしてくれた人々の顔が浮かぶ。だが――


「……僕はどうすればいいんですか?」


声が震える。

グレイスが初めて立ち止まり振り返った。その眼差しは厳しくも温かい。


「自分の生き方を決めろ。ただ耐えるだけか……それとも抵抗するか」


レンは黙って俯いた。

ニーナも獣人に酷い目に遭わされたと言っていた事を思い出した


「ずいぶん遅かったが、聖女様には会えたのか?」


「いえ……留守みたいで……」


「そうか……」


グレイスは腕を組む。


「まぁ……今はいい。時間はまだある」


再び歩き始めた彼の背中が、どこか頼もしく見えた。


「とにかくだ」


グレイスが声のトーンを落とした。


「お前は俺の部下だ。街中ならともかく、もし騎士団の管轄内で危害が及ぶようなことがあれば……俺が黙っちゃいない」


彼の言葉には力が籠っていた。それは単なる上司の義務ではない。騎士としての矜持。そして……守るべき者のための誓い。


「ありがとうございます……隊長」


レンの心に温かなものが広がった。スキルの声よりも先に――この騎士の声が確かに届いた気がした。


二人は夕暮れの街路を歩きながら、新たな明日への一歩を刻んでいく

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