シャドウストーカーとの戦い
「邪魔をするな!」
レンが剣を抜き構える
「レン様!あれは普通の魔獣ではない!逃げましょう!」
(さぁ見せてください……貴方の力を)
黒い渦から這い出したのは漆黒の獣だった。シャドウストーカー――影のように蠢く体と、獲物を狙う鋭い牙。闇そのものが実体化したかのような魔獣が、鈍い唸りをあげて二人に迫る。
「逃げろ!」
レンが叫ぶと同時に剣を構える。刀身が洞窟の仄暗い光を捉えて冷たく煌めく。
ニーナが壁際に縮こまる。
「でも……あなたを置いてはいけない!」
「いいから早く!」
レンの声に焦りが混じる。
「ここは任せろ!」
彼の背中がニーナの前に立ち塞がる。剣聖スキルが自然と構えを最適化する――
自身のスキルを正しく認識した事で変化が生まれていた
まるで長い剣術の訓練を積んだ老剣士のような姿勢だ。
異質な雰囲気を纏ったシャドウストーカーが飛びかかる。
レンが横薙ぎに剣を振るう。
斬撃は確かに敵の胴体を捉えた……はずだった。
しかし――影が霧散するように刃を受け流し、獣は次の瞬間には死角である背後に回り込んでいた。
「ぐっ!」
鋭い爪が背中を抉る。鮮血が服を染めるが、治癒能力が即座に傷を修復する。
(この速さ……捉えられない!)
「行け!」
レンが再び叫ぶ。
「騎士団を探せ!グレイス隊長に伝えろ!」
ニーナが唇を噛み締め、恐怖を押し殺して洞窟の出口へと駆け出す。
「必ず戻ります!」
彼女の叫びが雨音に消えた。
魔獣が標的をレンに固定する。
影が地面に広がり、複数の“手”となって彼の足を絡め取ろうとする。
(まずい……動きを封じられる!)
レンは剣の柄を地面に突き立てて跳躍、影の拘束を回避する。
そのまま空中で姿勢を制御し、魔獣の頭上へ急降下!
「そこだ!」
剣が振り下ろされる。しかし――
ストーカーは影に溶けるように消え、レンの刃は空を切った。
(どこだ……?)
刹那、背後から冷たい感触。再び爪が彼の首筋を狙う。
レンが危うく体を捻り躱すが、バランスを崩して洞窟の壁に叩きつけられた。
「がはっ……!」
胸骨が軋む。治癒スキルが瞬時に骨折を修復するが、その回復に意識が向いている隙に――
影が四方八方から伸び、レンの四肢を拘束した。
「くそっ……!」
魔獣の喉奥から勝利の呻きが漏れる。鈍く輝く牙がレンの眼前に迫る。鋭い牙が目前に迫る。今にも噛み千切られそうだ。
(ここまでか……)
諦めかけたその時――
「レン!!」
ガロウの声と共に銀色の閃光が洞窟を貫く。
槍の穂先がシャドウストーカーの額を正確に貫いた!
「間に合った!」
息を切らせたガロウが獣からレンを引き剥がす。影の触手が断ち切られ、獣が絶叫する。
「グレイス隊長は?」
「ニーナ様と一緒にこちらに向かっている!」
ガロウが応じる。
「匂いを辿った!」
ストーカーが激怒し、壁や天井を跳ねるように襲いかかる。
「ここは俺が!」
ガロウが前に出る。槍が風を切る。
レンが膝をついたまま剣を握り直す。
「俺も……戦う……」
治癒スキルが全身を癒していくが、疲労は隠せない。
「こいつは影を操る……だが影から出た瞬間は実体化して無防備だ」
ガロウはレンに視線を移すと
「俺が囮になる…いけるか?」
頷きレンが構える
(剣聖スキル……そんなものが俺の中に眠るっているのなら…力を貸して下さい!)
全身の血液が沸騰するような感覚。脳裏にいくつもの戦術パターンが浮かぶ。
影が壁に広がり、無数の触手が襲い来る。
「今だ!」
「了解!」
ガロウが意図的に右に動くとストーカーが影から姿を現す、レンが踏み込む。
(ここだ!)
剣が閃く。獣の腹を深々と裂く。
「うおおおおお!!」
彼の剣筋に迷いはない。剣聖スキルが最適解を導く。
しかし――
獣は致命傷を負いながらも最後の抵抗に出た。
影が洞窟全体を覆い尽くす。視界が闇に沈む。
「レン!」
ガロウの警告。
足元の感触が失われる。
影の海に飲み込まれる!
「!?」
レンが沈む刹那――
轟音と共に巨大な槌が影を打ち砕いた!
「無事か!」
グレイスが仁王立ちしている。槌の一撃で影の支配領域が消滅する。
ニーナが彼の背後で息を切らせている。
守護者スキルの加護か――グレイスの筋肉が隆起し、魔獣の気配だけで肌が粟立つ。
グレイスの槌が大地を揺るがす。
渾身の一撃がストーカーの頭蓋を粉砕する。
断末魔もなく魔獣は崩れ落ちた。
「……ふぅ」
グレイスが槌を担ぎ直す。
レンとガロウが膝をつく。
「すみ…ません……迷惑…かけて」
レンが謝る。
グレイスの大きな掌が彼の肩を掴む。
「生きてさえいれば迷惑などない」
その言葉が深く胸に響いた。
雨がまだ降る森の中。ニーナがヴェールを拭いながら呟く。
「あの黒い男は……一体何者なのでしょう?」
レンが黙って拳を握る。
「わからない……でも」
(あの卵……どこかで見覚えがある気がする)
そして彼の胸の奥で、新たな力が確かに脈打っていた
だがそこでレンの意識は途絶えた
グレイスやガロウ、ニーナの声が彼を呼ぶ聞こえた気がしたが意識は深い深い暗闇へと沈んでいった…




