カイレンの独白
王都中央治療院――三毛猫獣人の主治医カイレン・オストラッドは窓辺に佇んでいた。月明かりが大理石の床に斑模様の影を落とす。
「ふぅ……」
今日の出来事が鮮明に蘇る。
血だらけの若者の腹に手を当てた瞬間――あの白い光。
肉と骨が再生していく奇跡。
「あんなものは医学ではない……」
指先が微かに震える。
長年の冒険生活と治療院で数々の生死の境を見つめてきた。
だが今日の光景は……科学の領域を超えていた。
「もし私が治せるとすれば……最低一週間の集中治療。それも運が良ければの話だ」
机上に積まれたカルテを眺める。
《患者名:アーサー/状態:完全治癒/原因:秘薬による治癒》
文字だけでは説明不可能苦笑する。
そんな秘薬は神話級だ。
カイレン自身も実物が見つかったと聞いたこともない。
「やはり彼は……異界の『器』なのだろうか」
伝承にある召喚者の証――ユニークスキル保持者。国にとっては宝であり脅威でもある。
「厄介なことに巻き込まれてしまったなぁ……」
尾がゆったりと揺れる。
報告すべきか?国王への忠誠心なら即刻進言だ。
しかし――
「彼のような少年を『兵器』として扱わせるわけにはいかない」
かつて戦争で拉致された人間の子供たちを見てきた。
使い捨ての道具とされた彼らの末路を。
「それに……グレイスとハルクの様子もおかしかった」
古馴染みの二人が珍しく緊張していた。
おそらく彼らも真相を察している。
「ならば……しばらく静観かな」
机の引き出しから古ぼけた羊皮紙を取り出す。『治癒師協会倫理規定第十三条』――患者の個人情報の秘匿義務。
「医師には患者を守る使命がある。たとえ王命であってもね」
月光に照らされた瞳が鋭く光る。
軽やかな足取りで部屋を出る三毛猫の主治医。
「さてと……明日皆にもう一度釘を刺しておきますかね」
微笑みの下に決意を秘めて。




