先輩騎士達の思い
日が落ちた宿舎の食堂は静かだった。
松明の炎が壁に巨大な影を落とし、酒も入っていないのに妙な緊張感が漂う。
テーブルを囲む五人の男たち──すべて獣人だ。
ボルドが爪をテーブルに立てた。
「でよ……あのチビのこと、どう思う?」
「チビじゃなくてレンだろ」
ライガが唸るように答えた。
「確かに人間のガキだけどな……」
猿獣人マルコが尻尾をクルクル回す。
「問題はそこじゃねぇだろ。あの秘薬ってやつだ」
「治療院であの怪我人を一瞬で治したって話だ」
猫獣人ロイが鼻を鳴らす。
「しかもカイレン先生が『秘薬』なんて言ってたが……」
「あり得ねぇ」
ボルドが拳を握る。
「カイレンが秘薬を使うなんて。普段は物理療法信者だぞ?百歩譲ってもンな秘薬がホイホイ出てくるかよ」
食堂の空気が重くなる。
全員がわかっていた。治療院での出来事は「奇跡」であり、「秘薬」なんて建前に過ぎないことを。
「グレイス隊長が必死に隠してるのも気になる」
「ガロウ副長も口裏合わせてるしな」
「つまりだ」
ライガが睨む。
「レンの奴……異界の『器』かもな」
沈黙。獣人たちは互いの目を探るように見る。
「異界の『器』」
猿獣人が唾を飲み込む。
「ユニークスキルを秘めた人間……」
「国の宝か」
ボルドが皮肉っぽく笑った。
「俺らと同じ隊で寝泊まりしてるのが宝か」
ジョーが溜息をついた。
「バカ言え。まだ確定じゃねぇ。それに……」
「それに?」
「レンはただの可愛え後輩だ。入隊間もない新人だ。守る立場だろうが」
「そうだよな」
ライガが頷く。
「異界の『器』だのなんだの言う前に……」
「おい」ボルドが立ち上がった。
その目は真剣だ。
「これからどうするか決めるぞ」
全員が無言で頷く。
「まず第一に」ボルドが拳を叩きつける。
「俺たちでレンを守る。あのチビが狙われる存在なのは間違いねぇ」
「当たり前だ」ジョーが牙を剥く。
「第二に」
ボルドが続ける。
「からかう」
「はぁ?」マルコが首を傾げる。
「バカか」
ライガがニヤリと笑った。
「団長達が俺たちに隠し事をするのが悪い!まぁ事情はわかるけどよぉ……それに」
「それに?」
「ガキは構ってもらえないと拗ねるもんだ。特に人間のチビはな」
ジョー爆笑した。「オメェ……それ昔飼ってた犬のこと言ってるだろ?」
「うるせぇ!」
ライガが吠える。
「とにかくだ!明日から徹底的に構う!そして最後に……」
全員が目を合わせる。
「『兄弟』として……守る」
「了解」
「おう」
「任せとけ」
五つの拳が重なる。
食堂に響く鈍い音。明日からの「からかい作戦」が始まろうとしていた──そして誰も知らないところで、既にバスクが一歩先を行っていた。




