ハルクの独白
夕闇迫る通りを歩きながら、ハルクは今しがたの出来事を反芻していた。
グレイスの野郎、随分と変わったもんだぜ。
あの堅物がレン坊を庇うように前に出るなんざ、数年前じゃ考えられねぇ光景だ。
(治療院の件……やっぱりレン坊が関わってたか)
最初は単なる偶然かと思った。
重傷の冒険者が即座に完治したなんて話、普通じゃありえねぇからな。
だが……カイレンの治癒能力と薬学知識を考えりゃ、あんな劇的な回復は説明できねぇ。
そこに偶然レン坊が居合わせたのが妙に引っかかったんだ。
レン坊の反応は明らかにおかしかった。俺が「治癒」なんて言葉を出した時の動揺っぷりときたら……しかもグレイスまでがそれを庇うような仕草を見せやがった。
「水晶の借りを返した」だと? 冗談じゃねぇ。
アイツはそんな事気にしてるタマじゃねぇんだ。つまり──
(やっぱりレン坊が何かしらの治癒能力を使って助けたってわけだな)
ユニークスキルか……? だとしたらとんでもねぇ代物だ。
重傷を一瞬で完治させるなんて、過去の記録にもほとんどねぇ。
(だがな……)
俺は鼻先をこすりながら思う。
もし本当にそんな力を持ってるなら、もっと自己顕示欲が出てくるはずだ。
なのにレン坊は全くそんな素振りを見せねぇ。
治療院の仕事でコツコツ努力してるって話も聞く。
アイツは本物の善人なんだろう。
だが同時に危うい奴だ。
自分の中にとんでもねぇ力があるのに気づいてねぇ……いや、気づきつつあるのかもしれねぇな。
それがいつ爆発するか分からねぇんだ。
「まったく……グレイスの奴、ちゃんと見ててやれよ」
声に出して呟いちまった。
あの堅物も相当参ってるみてぇだしな。あんな風にレン坊を庇うようになるとは思わなかったぜ。
まぁ昔から不器用な奴だったが……まさかここまで感情を見せるとはな。
(俺たちの関係も変わりつつあるってことか)
グレイスと俺は冒険者の頃からの腐れ縁だ。
お互いに口には出さねぇが……まぁ昔はそれなりに色々あった。
特に恋愛絡みではな……思い出しても腹が立つ。
アイツはいつも損な役回りばかり選ぶ奴だった。
「でも今は違うんだな」
レン坊に対しては妙に過保護になってやがる。
最初は警戒してたのに、今はもう完全に自分の側に置いておきたがってるじゃねぇか。
あんな姿見せられたら俺まで毒気を抜かれちまうぜ。
(……まぁいいさ)
アイツが心を開いてきたってことだろう。だったら俺も素直に受け入れてやるのが筋ってもんだ。ただし──
「脅威であることに変わりはねぇがな」
レン坊の力は計り知れねぇ。
もし敵に回ったらヴァルシオンの軍隊でも止められるかどうか……。
だがアイツ自身がそれに気づいてねぇのが幸運だ。
今のうちにしっかり繋ぎ留めておかねぇとな。
「さて……どうするかね」
ギルドに戻ったらあの冒険者共にあまり言いふらさない様釘を刺さなくては
噂が際限なく広まれば届いちゃいけないところまで届いちまう
カイレンから薬の請求が届いたからギルドが肩代わりしてる事にでもするかね。
「グレイスには改めて話を通しておこう。アイツなら嫌々でも協力してくれるはずだ」
独り言を続けながらギルドへの坂道を上っていく。
俺の鼻息はいつになく荒くなっていた。興奮しているのだ。
これはただの厄介事じゃねぇ──俺たちの王国を揺るがす重大な事案かもしれねぇんだからな。
「面白いじゃねぇか。久々に骨のある仕事ができそうだぜ」




