表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/71

ハルクからの感謝

あれから数日が過ぎた。

治療院での一件は「秘薬の奇跡」という形で片付けられ、辛うじてレンの功績は表沙汰にならなかった。

表面上は何事もなかったように日常が続いていた。


(あの力……いつでも使えるわけじゃないんだろうな)


レンは毎晩訓練を欠かさなくなった。

剣の稽古だけでなく精神統一の時間も増やした。

いつかまた大切な時に備えて。

治療院からの帰り道。

街の中央広場に差し掛かった時だった。


「おーいレン坊!」


太い声が響く。振り返ると筋骨隆々の牛獣人─ハルクが手を振っていた。


「ハルクさん!?」


彼は人混みを掻き分け駆け寄ってきた。

大きな体躯が風を切る音さえ聞こえる。


「元気か?治療院での働きぶり聞いてるぞ!」


「はい……まぁぼちぼちです」


レンは曖昧に答える。彼は治療院での件を知っているのだろうか?


「そうそう聞いてくれよ!」


ハルクが嬉しそうに言う。


「皆んなお前の笑顔に癒されて元気が出るって評判だぞ!」


(それは買い被りだと思うけど……)


苦笑いを浮かべるレン。

だが次の瞬間ハルクの雰囲気が変わった。


「……それにあの時は本当にありがとうな」


声のトーンが低くなる。

鋭い眼光がレンを射抜く。


「実はあの後の様子を聞いてさ……お前がいなきゃ彼は助からなかっただろう」


「いえ……そんな大したことでは……」


「謙遜するな!」


突然ハルクが力強くレンを抱きしめた。

太い腕が背中に回り息が詰まる。


「ぐっ……く…くるしっ……」


「お前はうちのギルドの恩人だ!いやヴァルシオン王国の恩人かもしれねぇ!」


豪快な声で宣言される。

周囲の通行人たちが足を止める。

野次馬根性丸出しの者、興味本位で近づく者、様々だ。


「おいおいあれって……」「治療院の……」「なんでギルドマスターに抱きつかれて……」


好奇の視線を感じつつレンはどうにか脱出しようと踠く。

だが圧倒的な力の差に勝ち目はない。


(このままじゃ窒息する……)


絶望しかけたその時、ふと背中の圧力が緩んだ。


「!」


不思議に思って顔を上げるとハルクの表情が変わっていた。彼は驚いたように横を見る。

そこには無言のグレイスが立っていた。レンの肩を掴みハルクの腕から引き剥がしている。


「何すんだよグレイス!」


ハルクが抗議の声を上げる。


「別に悪いことしてねぇだろうが!」


「そうかもしれないが」


グレイスが静かに言う。


「必要以上に馴れ馴れしくするのは控えるべきだ」


「なんだそりゃ……」


ハルクが眉をひそめる。


「まぁいい。それよりお前にも礼を言わなくちゃな」


「礼?」


グレイスが首を傾げる。


「噂によるとお前もレン坊がいた現場にいたんだろう?」


「……あぁ」


「……止めなかったんだろ?本当ありがとうな!」


そう言いながらハルクが急接近。

鼻先が触れそうな距離でニヤリと笑う。


「なぁグレイスよ。お前この子の事どう思ってる?」


「どうとは?」


「気になるとか好きとかそういうことだ!」


グレイスの眉間に僅かな皺が寄る。表情こそ変えないが彼の尻尾が少し膨らんでいるのをレンは見逃さなかった。


(怒ってる……のかな?)


「そんな感情はない」


即答するグレイス。しかしハルクは引き下がらない。


「嘘つけ!本当は結構気にかけてるんだろ?じゃなきゃ毎日治療院の前を通ったりしないはずだ」


「それは巡回の一環だ」


「またまたぁ〜」


ハルクの挑発的な態度にグレイスの体勢が僅かに変わる。重心が低くなり構えるような姿勢に。


(まずい……喧嘩になるかも)


レンが間に入ろうとしたその時─


「冗談だって!」


ハルクが突然笑い出す。


「お前も冗談わかるようになったか?」


「冗談など通じん」


「まぁまぁ落ち着けって」


ハルクが肩を叩こうとしてグレイスに避けられる。


(まったく……ハルクさんはいつも唐突だから困るな……)


レンが困惑しているとハルクが突然真面目な表情になった。


「なぁグレイス。お前が守るんだな?」


問いかけ。重い意味を持つ言葉だ。

グレイスが無言で頷く。


「了解!」


ハルクが大きく笑う。


「じゃあ俺からは一つだけ言うぜ」


彼がグレイスに耳打ちする。内容は聞こえなかったがグレイスの表情が僅かに動いた気がした。


(なんだろう……重要なことっぽいな)


考え込むレン。その思考を中断させたのは突然のキス音だった。


チュッ─!


「っ!!」


反射的に飛び退くレン。見ればハルクが舌なめずりをしている。


「お礼のチューだぜ♪」


「はぁ!?」


レンが顔を赤らめる。


「やめてください!僕はまだ……!」


「良いじゃねぇか減るもんでもなし」


「そういう問題じゃ……!」


(っていうかどうしてこんなところでお礼のキスなんか……恥ずかしい……)


周りの視線を感じてさらに居心地が悪くなる。すると再び肩を引かれグレイスの後ろに立たされた。


「水晶の借りは返した」


グレイスが静かに告げる。


「はぁ?なんだよ一応気にしてたのかよ…」

ハルクが呆れ顔を見せる。


「まぁいいや。これで色々チャラだな」


と豪快にハルクは笑ったハルクの笑い声は通り中に響き渡るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ