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治療院デビュー

バイトの経験が無かったレンは緊張していた。

しかし、考えていたより朝の治療院は平和だった。

ポツポツと体調の悪そうな患者は訪れるものの、急患が運び込まれるような事態は起きなかった。

患者に挨拶しつつ、カイレンの患者への対応を見ながら雑務をこなすレン。


「まあ、冒険者が担ぎ込まれてくることは有りますが、基本はこんな感じですよ」


カイレンはそう言って笑った。


***


しかし、開院から暫く経つと廊下が溢れんばかりの獣人で埋め尽くされた。


「おはようございます!」


レンが初々しい笑顔で頭を下げると歓声が上がる。

熊、犬、羊、鳥──老若男女の毛むくじゃらな塊が雪崩れ込んだ。


「おいおいマジかよ、本物の人間だ」


「すげぇ可愛い……」


「俺昨日の夜一睡もできてねぇんだよ」


三毛猫獣人のカイレンが目を丸くする。


「こんな混雑初めてですよ」


「す、すみません……」


レンが恐縮すると今度はため息が漏れた。


「謝らなくていいのよ〜」


三つ編みの犬獣人の婦人がウインク。


「むしろ毎日通っちゃうからね」


「順番にお願いします!」


バイトで雇われた猪獣人の青年が列を整理しようとするが全く追いつかない。

結局カイレンの鶴もとい猫の一声でようやく一時の秩序が戻った。


最初の患者は馬獣人の老紳士だった。


「レンくんって呼んでも構わないかい?」


蹄の音を立てて近づく。


「はい構いませんが……」


レンが答えかけた途端三毛猫の耳がピーンと伸びた。


「私の助手を口説くつもりなら……」


カイレンの温和な顔が豹変。


「もっと重い病気で来てください」


老紳士は青ざめて退散した。

次は猿獣人の若い女性だった。


「ねえねえ一緒にデートしない?森の奥にある秘密の温泉とか案内するよ?」


「あの……仕事が……」


レンが言いかけたがカイレンが遮る。


「秘密の怪我があるならここで診察しましょうか?あー痛い痛い治療しちゃいますけど」


彼女の顔から笑顔が消え


「また来ます」


と言い残して去って行った。

時間が経つにつれ更に過激な要求が増えていった。


「今晩どうだ?」


狼獣人の鍛冶屋が舌舐めずり。


「俺の火属性魔法であっつあつの料理を作ってやるぜ」


「あっつあつの熱湯消毒ご希望ですか?」


カイレンが注射器を手の中で回す。


最終的に「痛い治療」を恐れて半数以上が引き返した。それでも最後に残った一人は粘り強かった。


「一目惚れしました!僕と結婚してくれませんか?」


「ごめんなさい!」


レンが叫ぶと同時にカイレンのチョップが患者に叩き込まれる鈍い音が響いた。


午前の診察が終わる頃にはレンはへとへとに疲れ切って城への道を歩いていた。


「なんでみんな僕なんかに……」


「人間が珍しいのと君が可愛すぎるせいでしょうねぇ」


カイレンが笑いながら送り出す。


「でも根は純粋そうな方たちでしたし……きっと悪いようにはなりませんよ」


城門に到着するとガロウが待ち構えていた。


「随分派手なデビューだったらしいな」


「すみません……ご迷惑かけて……」


「迷惑など。むしろ注目を集められるのは計画通りだ」


ガロウが意味ありげに笑う。

訓練場に向かう途中ですれ違った騎士たちは皆レンを見てひそひそ話を交わしていた。


訓練場ではすでに準備運動が始まっていた。

「やっと来たか」


ライガが笑いかける。


「治療院はどうだった?」


「色々ありましたよ」


レンは言葉を濁す。


「聞いたぜ!人間の天使さまに会ってきたってやつがたくさんいるぞ」


ボルドがニヤニヤしている。


「で?どのくらいキツいお注射してきた?」


「僕は何も……」


「おいおい!」


ライガが大声を上げる。


「本当なのか?レンきゅんの診察を受けられると寿命が延びるって噂まで聞いたぞ」


バスクは無言でレンを睨んでいた。


「まあ噂は放っておけ」


ガロウがやってくる。


「それより今日の昼からの訓練内容だが……」


彼が説明し始めるとレンの集中は完全にそちらへ向かった。治療院での騒ぎは忘却の彼方に消え去り汗まみれの訓練が始まった。

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