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治癒の検証

グレイスの自室は質素だが機能的だった。

書類棚とベッド、机が置かれただけの空間である。

彼は無言でレンに椅子を勧めた。


「あの剣のことだが……」


熊獣人の声は低い。


「なぜ勝手に振った?」


レンは素直に答えた。


「すみません。手入れをしてたら急に体が……まるで操られてるみたいに勝手に動いてしまって」


グレイスはレンの目をじっと見つめた。

彼の心眼スキルが無意識に発動している。

相手の所作、心理状態、スキルの有無—すべてが見透かされていく。


(嘘はない。本当に偶然だったようだ)


「なるほど」


グレイスは机の引き出しから小さな銀のナイフを取り出した。


「これを握れ」


レンは恐る恐るナイフを受け取った。

刃先が僅かに光る。


「指先を少し切ってみろ」


グレイスの指示は簡潔だった。


「治癒スキルの検証をする」


「え?自分で……ですか?」


レンは困惑した。


「時間が惜しい」


グレイスの声音は厳しかった。


「これは必要な確認だ」


レンは震える手で親指の先を浅く切った。


鋭い痛みと共に血の一滴が浮かぶ。


「見ていろ」


グレイスがレンの手を掴んだ。


「これが治癒スキルなら……」


次の瞬間、不思議なことが起こった。

傷口がわずかに輝き、数秒で消え去った。

痕跡すらない。


「すごい……」


レン自身が驚いた声をあげる。


「通常の治癒ではこうはいかない」


グレイスが低く唸った。


「傷跡や瘡蓋が残るはずだ。小さな傷とはいえこの速度で完全に消えるのはレアクラス以上の証だ」


「僕にそんな力が……」


レンは呆然とした。


グレイスは今度は自分の親指の先を器用に切った。

赤い液体が滴る。


「お前の手でこれを治してみろ」


レンは慎重に手を伸ばし、グレイスの傷に触れようとした。


しかし—


「……ダメです」


レンが首を横に振る。


「僕の時みたいに光りません」


「なるほど」


グレイスは納得したように頷いた。


「二つの可能性がある」


1. まだスキルを使いこなせていない


2. 元々自分自身のみが対象のスキル


「しばらく観察が必要だ」


グレイスが立ち上がる。


「明日から正式に鍛錬に入る。ガロウの指示に従え」


ドアに向かうレンの背中に声がかかった。


「くれぐれもその力、他言無用だ」


グレイスの眼が鋭く光る。


「……命取りになりかねん」


部屋を出る時、レンの頭の中は疑問でいっぱいだった。

突如現れた治癒の力、異世界、獣人、騎士団への入団

すべてが突然すぎる真実だった。


廊下の窓から見える夜空には、見たこともない星座が輝いていた。

これが夢であれ現実であれ、もう戻ることはできないのだとレンは悟った。

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