第7話:癒しの地を求めて、ふたたび空へ
王都アストレリア。
“神の鏡”による審問を乗り越えた翌朝。
私は王宮のバルコニーから、静かに空を見上げていた。
祝福の鐘が鳴り響く中、
人々の歓声と祝意が街中を包んでいる。
「聖女様! ありがとう!」「俺の村にも来てください!」
「魔族に祈りを捧げたって? あたしは支持するよ!
だって、あんたは“誰より人間らしい”じゃないか!」
耳に届く声は、どれも温かい。
でも、その一方で――
「審問は終わったが、納得いかん。あの女は魔王の名を継いでいたんだぞ」
「次に魔族を癒すたび、また“神の加護”が濁るのでは……?」
……そう、全員が受け入れたわけではない。
“異端”は、“奇跡”と紙一重。
そしてそれを維持するには、私自身が止まり続けてはいけない。
(だから――私はまた、動き出す)
その日、私は王都を発った。
同行するのは、騎士団副団長のエリアス、
そして魔王城から密かに連れてきたカミュ。
三人の小さな旅路が、再び始まる。
「で、向かう先は?」
「北の国境近くに、古代種族の集落があるそうです」
カミュが地図を指でなぞる。
「彼らはかつて、聖女でも魔王でもない“癒し手”に守られていたという。
その血が、今でも眠るように脈打っていると、古文書にはあります」
「その“癒し手”の力が……今の私に繋がっているかもしれないってこと?」
「あるいは、貴女の力を安定させる鍵になるかもしれません」
エリアスが続けた。
「いずれ、世界はまた揺れ動く。
神の加護も、魔族の祈りも、すべては均衡の上に成り立っている。
貴女がその“橋”であるなら――今、力を深めておくべきです」
私は頷いた。
「ありがとう。……二人とも、また一緒にいてくれて」
「当然です」
「貴女に従うのが、私の信念ですから」
二人の言葉に、胸が少し温かくなる。
風が吹く。
空は、広い。
神の都から離れ、真実を求める旅が――再び始まった。
*
その夜。
一行は山間の小さな集落で野営していた。
焚き火のそば、カミュがふと何かに気づいたように顔を上げる。
「……リーナ様。東の風が妙に重たい。魔素の濁りを感じます」
「魔物かしら?」
「いいえ、もっと古い……“封じられたもの”の気配です」
それはまるで、何かが――目を覚ましたような――
私たちの旅は、癒しだけでは終わらない。
その先には、きっと――まだ語られていない“始まり”がある。
祈りの本質を問う旅。
そして、それを受け継ぐ者たちとの邂逅。
私は目を閉じ、そっと願う。
(どうか、この祈りが、届きますように――)