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愛のかたち (後編)

「ケッ、女をたらし込むのだけは1人前だな」

 店から外に出ると、浮田がこちらを見ることなく、地面に吐き捨てるようにそう毒づいた。

「あら、残念ね。口説いているのは私の方だから」

 菅原さんはニッコリ微笑むと、僕の腕に自分の腕を絡めた。そして、

「行きましょう」

 と囁いて、僕の腕を引っ張る。

「マジであんな美人と・・・羨ましい」

 戸塚さんの大きすぎる独り言を背中に聞きながら、僕は腕を引かれるまま歩いた。

 繁華街は、行き交うひとでにぎわっている。

 腕を組んで歩いている男女も、ちらほら見受けられる。この中でなら、僕らも違和感はないだろうか。

 同僚たちの姿は、とっくに見えないところまで歩いてきた。

 僕をかばうために腕を組んでくれているのは嬉しいけど、いつまでこのままでいて良いのか、心配になってくる。

 心臓のドキドキも止まらない。何か話さないと。

「菅原さんもお店に来てたんですね。坂本さんにも会ったし、こんな偶然があるんですね」 

「・・・偶然じゃないかな。星崎さんの小説のことで坂本君に電話したら、星崎さんとお店ですれ違ったと聞いて。それで、どうしても星崎さんと直接あって話がしたくて、会社から駆けつけたんです」

「それは、その、ありがとうございます。それなのに、こんなことに巻き込んでしまって、申し訳なかったです」

 すると、不意に僕の腕をつかむ菅原さんの手に力が入った。

「ウゥッーーほんとムカつくわね。パワハラ野郎は今まで何人も会ったけど、あそこまでの奴は初めてだわ。星崎さんも、よく我慢してるわよ」

「僕が出会った上司は、あんな感じのひとばかりで、慣れてるのかもしれないです。それでも、菅原さんに暴言を言ったことが許せなかったのに・・・何もできずに本当にすみません」

「フフッ、星崎さんが謝ることないですよ。それに、なんだかドラマの主人公みたいなことも出来ましたし」

 イタズラっぽく笑う彼女が可愛い。それだけに、自分が情けない。

「強いですね菅原さんは。僕なんて何も言い返せれなかったのに」

 自虐的に笑みをこぼすと、絡まっていた腕がスルリと離れてしまった。

「全然、強くなんかないよ・・・」 

 そう呟くと、彼女は歩みを早めて僕に背を向けた。

 いま、離れては駄目な気がして、慌ててその背中を追いかけると、菅原さんの手をつかんだ。

「ごめんなさいッ、そんなつもりで言ったんじゃないです。ただ、菅原さんに助けてもらうだけの自分が情けなくて」

 こんな言い訳しかできない自分が、ホントに情けなくなってくる。

 そんな僕の手を、菅原さんはギュッと握り返してくれた。

「・・・私、星崎さんのことが好きです。でも、私と一緒にいたら不幸にしてしまうかもしれない。そう思うと怖くなってしまって、応えられなかった」

「斎藤さんから、事情を聞きました。でも、僕はあきらめたくないです」

 僕はできる限りの真剣さで伝えた。すると、菅原さんは恥ずかしそう表情を浮かべて、視線を歩む方にそらした。

「星崎さんに預かった今回の小説、心の底から感動しました。もう、涙が止まらなくて、次の日は顔が酷いことになって会社を休んだほどです」 

 え? それであの日、欠勤したんだ。

「悠人のお父さんの愛情はもちろんだけど、お母さんのひたむきな愛する気持ち、悠人の本当の父親の不器用な愛。いろんな愛するカタチがあって正しくない事もあるけど、それでも愛する者の為に成長しようとする健気さ。凄いと思いました」 

「書いてる本人は、こんなヘタレですけど」

 僕が苦笑いすると、菅原さんはニッコリ微笑んだ。

「それを含めて、星崎さんの愛のカタチだと思います。そして、私も私なりの愛のカタチを作っていけれたら・・・ううん、拓真さんと作って行きたいです。どうかお願いします」

 そう言ってはにかんだ菅原さんを、僕はたまらなくなって抱きしめていた。

 僕の人生で、あり得ないと思っていた夢のような出来事。それが今、菅原さんの体温と甘い香りとともに現実として伝わってくる。

「よろしくお願いしますッ。一生懸命働きますから」

「フフッ、なんですかそれ。安心してください。拓真さんが仕事を辞めても、私が養いますから。その代わり、拓真さんのお話を私にたくさん読ませてくださいね」

「が、頑張ります・・・」

 通り過ぎるひとの好奇の目が今更ながら気になって、そっと体を離した。

 そんな僕の反応を、菅原さんは楽しそうに見つめながら、

「よかったら、飲み直しません」

 と誘ってきた。

「もちろん、行きます。でも、ここ何処でしょうね」 

 いつの間にか、見慣れない街並みまで来ていた。

「せっかくだから、新しいお店を開拓しましょう」

「いいですね」

 僕と菅原さんは、どちらからともなく手をつなぎ直すと、ネオンを眺めながら他愛もない会話を交わしながら歩きだした。

 僕らの愛のカタチはここから始まる。

 

 

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