想い続けること
『こんばんは。体調を崩してると聞きました。お大事にしてください。
もし、僕にできることがありましたら、なんなりとお申し付けください』
社員アパートに戻ると、僕はじっくり言葉を選んで菅原さんにLINEを送った。考えすぎて、なんだか営業トークみたいになってる気がする。
既読はなかなか付かない・・・
確認する度に、送ったLINEを読み返してみる。
自信はないけど、菅原さんに負担になる言葉はないはずだ。
シャワーを浴びると、冷蔵庫からお茶のペットボトルを出すと、飲みながらテーブルに置いておいたスマホを手に取った。
LINEを見ると、既読が付いていた。
しかし、それから1時間たっても、LINEの返信はこなかった。
テレビを観ていても、気になって全く頭に入ってこない。
どうしよ。もう一度、LINEしてみようかな。でも、本当に体調悪かったら迷惑だしな・・・。
やっばり、辞めておこう。
スマホをテーブルに置いて、テレビのリモコンに持ち替えた時、電話の着メロが鳴りだした。
僕は直ぐさまスマホをつかんだ。
画面を見ると・・・なんだよ、蒼じゃないか。
「もしもし」
「あれ? 暗い声だな。なんかあったか?」
電話の相手がお前だからだよ。
「そうか? 仕事復帰1日目で疲れてるのかもしれないな」
僕はそう答えながら、ベッドの横に身体をもたれかけた。
「それは、お疲れだったな」
「そっちは楽しそうな声だな。なんかいいことでもあったのか?」
そう聞き返すと、蒼はヘヘッと意味ありげに笑った。
「実は今度、麗奈と2人だけで食事に行くことになってさ」
飲みに行くのではなく、改まった食事と言うところが、お互いの意識の表れなんだろうな。
「それは良かったじゃん。上手くいくといいな」
「サンキュー。実は、最近ずっと電話やLINEで麗奈の悩み聞いててさ。仕事も彼氏とも上手くいってなかったみたいで、相談できるのはオレだけだって言われたんだよ」
照れた口調がなんだか腹立たしい。
「振られた者から、『相談者』へのクラスアップおめでとう」
「なんか、その名称だと先が長く感じるな。だが、オレは再び、最上職の『恋人』まで登り詰めてみせるッ」
そう言い切る蒼が少し羨ましかった。
僕は菅原さんにとっての何だろう。クラスで言ったら『小説を提供する者』だったけど、最近、『振られた者』にランクダウンしたんだよな。
まさか、さっきのLINEで『付きまとうも者』とかに、更にランクダウンしてないよね。
「応援してるよ。佐伯さんなんかより、蒼のほうが絶対いいヤツだからな」
「え? 何で拓真が佐伯のこと知ってんの」
あッ、そう言えば確かに不思議だよな。さて、どこから説明すれば良いか・・・
「会ったのは、このまえ行ったスズカ書房のイベントなんだけど」
そう説明していた時、チリンッとLINEの音がして、僕は耳元からスマホを離した。
菅原さんだッ。
「すまん蒼ッ、急用が出来たッ。今度、ゆっくり説明するから」
「お、おいッ。どういう」
ブツッと通話を切ると、直ぐにLINEを開いた。
(こんばんは。御心配をおかけして申し訳ありません。
体調はもう大分いいです。
今は星崎さんから預かった素晴らしい作品を、清書しています。
本当に感動して、涙が止まりませんでした。この感動を、他の人にも伝えられるよう頑張ります。
それから、文章の最後に書かれていた言葉、すごく嬉しかったです。
書き終わりましたら、ゆっくりお会いしたいです)
僕は立て続けに、菅原さんからのLINEを2度読むと、深く息を吐いた。
嫌われてなくて良かった。何か、返事を返さないと。
(体調が戻って安心しました。僕も続きを書きながら、お会い出来るのを楽しみにしています)
短い文章だが、3回読み返して誤字のないことを確認してから送信した。
すると、直ぐに菅原さんから羊が頑張るホーズをしたスタンプが送られてきた。
僕も持っているスタンプから、頑張るホーズを探してお繰り返した。
僕はもう一度、深く溜息を吐いた。でもこれは、さっきとは違って、高揚する気持ちを抑える幸せなものだった。
恋人になれたわけでわない。なんなら、この前フラれたばかりだ。
でも、こんなちょっとしたやり取りだけで、僕は明日からの仕事も乗り越えて行ける気持ちになれた。
ほんと、ありがたい。どうかこれからも、迷惑をかけないので好きでいさせてほしいです。
今度会った時に、それを伝えられたらいいな。その為には、繋がりを切らさないことだ。
僕はLINEに小説の続きを書き始めた。




