蒼と酒を飲む
「あの美人に告白しただけでも、大したもんだぞ」
仕事帰りで背広姿の蒼は、 2本目の缶ビールを飲みながら、僕の肩をパシパシと叩いた。
「嬉しそうだな」
僕は恨めしげに睨みながら、ビールをひと口飲んだ。
たまたま、次の日に蒼から電話がかかってきて、その時につい振られたことを話してしまった。
すると、その日の夜に大量のビールとつまみを持って、家にやってきたのだ。
「嬉しい? 嬉しいわけないだろ。俺は悲しんでるんだよ」
「違うだろ。振られた仲間が増えて喜んでるんだろ」
僕の指摘に、蒼は驚いた表情になった。
「え? 何で俺のこと知ってるんだよ。誰から聞いたのか?」
「別に誰にも聞いてないけどさ。皆で飲んだとき、見るからに蒼、告白する気満々だったからな。麗奈には会社の先輩の彼氏がいるって、佐々木さんが教えてくれたから、結果はそうだろうなって」
蒼は大きく溜息をついた。
「麗奈、彼氏いないって言ってたし、あんな思わせぶりな態度取られたら、誰だって勘違いするだろ」
前に麗奈と食事に行った時のことを思い出して、僕も深く頷いた。
「佐々木さんが言ってたけど、そうすると、男たちがチヤホヤしてくれるからさ。会社のストレスなんかを発散してるみたい」
「まぁ、騙される男が単純なのかね」
苦笑いを浮かべて、蒼はグイッと缶ビールをあおって空にした。
「・・・告白したこと、後悔してるか?」
僕はビールの缶を置いて、そう尋ねた。
すると、蒼は3本目のビールのプルタグを開けながら、不思議そうな表情で僕を見返してきた。
「恥ずッ、とは思うけど、後悔はしないだろ」
「え、どうして?」
「拓真はさ、告白して振られたらそこで終わりだと思ってるんじゃないか?」
「そりゃそうだろ」
「俺は告白って、エントリーシートに名前を書くことだと思ってる」
僕は意味が分からず首をひねった。
「例えば麗奈は、今まで友人だと思ってた俺を、告白すると恋愛対象として意識するようになるだろ。するとな、麗奈は無意識にこちらの行動1つづつを、今の彼氏と比べてしまうわけだ。そのパラメーターが今の彼氏を上回れば、チャンスが来るというわけさ」
「なんか、すごい理屈だけど、ポジティブですごいな」
感心してそう言うと、蒼はヘヘッと得意気に笑った。
「だから、拓真もまだエントリーシートに名前を書いただけなんだから、諦めるのは早いって。それに、病院で会ったときの印象からして、お前に対するパラメーター、結構高そうだったじゃん。だからもうちょっと上げれば、もしかするんじゃないか」
「そうかな・・・」
「だからって、パラメーター上げようとして頑張りすぎるなよ。ストーカー認定されたらゲームオーバーだからな」
冗談っぽくそう言って、蒼はまたグビグビッとビールをあおった。
もう少しか・・・無理だな。
そもそも、パラメーターの上げ方も、ルールも分からないし。どんな行動をとっても、裏目に出そうなんだよな。
僕の脳裏に、菅原さんの笑顔が浮かぶ。
でも、あきらめきれないです。こんなに誰かを好きになったのは初めてだから・・・。
床に置いた缶ビールを取ろうとして、隣に置いてあるスマホが目にはいった。
「・・・僕に出来るのは、これだけだよな」
「ん? なんか言ったか」
「いや」
僕は誤魔化すように笑うと、缶ビールを一気に飲み干した。




