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再会と始まり

初めての投稿です。

楽しんでもらえたら嬉しいです。

「星崎ッ、お前にも言ってるんだからな。聞いてんのか」 

 工場の休憩室。弁当を頬張りながら、主任の浮田さんの説教というより愚痴が止まらない。

「・・・はい」

 僕は少しさがった眼鏡を、指先で持ち上げて気持ちを紛らわした。楽しみにしていた、ツナサンドは相変わらず何の味もしない。

「今の若いやつは我慢が足りないんだよ。田中が辞めたのまで俺のせいにされたら、たまったもんじゃねぇぞ」

「そうですね・・・」

 いえ、あなたのせいですよ。ついでに言うと、そのクチャクチャと音を立てて食べるのも、パワハラだからな。

 それを声に出せたら、どれだけスッキリするだろうか。

 高卒で入社してきた田中くんは、浮田さんにパワハラを受け続け、半年も持たずに退社してしまった。

 ブラック企業で2年間鍛え抜かれ、心身ともにずだぼろなった経験がある僕だから、あなたのパワハラに耐えることが出来てるだけですから。

 チリンッとスマホが鳴った。

 僕は長テーブルに置いたスマホに視線を向ける。

 浮田さんは、軽く舌打ちをしながら椅子から立った。

「昼休、終わるぞ。遅れんなよ」

 昼休、まだ15分以上あるし、あなたはこれからタバコを吸いに外に行くんでしょうが。

「・・・はい」

 当然、口には出せないけど。

 携帯を開くと、蒼からのLINEだった。

(夜の飲み会1人増える)

そうなんだ。

(誰?)

(麗奈)

 思わずドキッと心臓が高鳴った。

 橘麗奈は、僕が高校生の時に好きだった子だからだ。もちろん、誰にも迷惑をかけることのない片思いだったけど。

 OKのスタンプを押す。

 麗奈とは高校卒業と同時に別れたって蒼が言ってたけど、寄りを戻したんだろうか・・・。

 僕は高校時代の麗奈の笑顔を思い出し、少し切ない気持ちが蘇りそうになるのを、残った缶コーヒーの苦さと一緒に飲み込んだ。




 飲み会の集合はいつもの居酒屋に19時。仕事が終わって社員アパートに戻ると、すぐにシャワーを浴びた。

 用意していた服に迷いが出て、選びなおしていたら、ギリギリの時間になってしまった。

「いらっしゃいませッ」

 居酒屋に入ると、金曜日だけあっていつもより賑わっており、店員の気合も違っていた。

「おーーい、ここッ」

 半個室から蒼が手を振っている。

「みんな早いね」

 上田に佐々木さん、麗奈はまだ来ていなかった。

「星崎、同窓会ぶりね」

 半分になった生ビールグラスを掲げて、佐々木さんが微笑んだ。すると、上田も合わせるようにグラスを持ち上げた。

「なかなか参加できなくて、ごめん」

 座りながら謝罪すると、

「しゃあないやろ、色々あったんやし。でも、元気そうやん」

 上田が軽い口調で言いながら、お品書きを渡してきた。

「まぁ、ブラック企業からプチブラック企業にランクダウンしたから、多少はね」

「なんだそれ」

 みんなが一斉に笑った。

 それから、お互いに近況を面白可笑しく報告し合いながら、2杯目のグラスを空けたころ、麗奈が息を切らせながらやってきた。

「ゴメン、会議が長引いちゃって」

 麗奈は、チラッと僕と蒼の隣が空いているのを見ると、ごく自然に蒼の横に座った。

 少し期待してごめんなさい。

「お腹空きすぎ」

 注文を受けに来た店員に、カシスオレンジのカクテルを頼むと、並んた料理からだし巻き玉子を取って頬張った。

 同窓会の時は、背中まであった長い髪が、今は肩のところで、綺麗に切りそろえられている。前とは違った可愛らしさに、僕は緊張を悟られないように、そっと視線をそらした。

「お久だね、星崎くん。転職したんでしょ」

「あ、う、うん。前川印刷っていうんだけど、雑誌とか小説の製本してる」

「え、本当? そこならウチの下請けじゃん」

「あ、そうなんだ。麗奈って何処だっけ?」

「あの業界大手のスズカ書房だろ。前の時に言ってたじゃん」

 何故か得意気に蒼が答えた。

 でも、確かにスズカ書房は一流だし、ウチの会社の超お得意さんだ。スズカ書房に切られたら間違いなくウチは潰れるだろうな。

「だからかッ。なんか星崎くんから、馴染みのある臭がするなって思ったけど、インクの臭いね」

「そんなに臭うかな」

 僕は自分の服の臭いをかいでみる。でも、インクの臭いに慣れすぎているせいか、全く分からない。

「どれどれ」

 上田が僕の肩に鼻を付けてクンクンする。

「まぁ、確かに言われてみればインクの臭いするな」

 そうなんだ。

「もうッ。せっかく仕事から解放されたのに、職場にいるみたいな気分になっちゃう」

「それは、なんかごめん」

 僕が謝ると、麗奈は慌てて左右に頭を振った。

「別に星崎くんを責めてるわけじゃないんだけどね。アァ〜〜、私も転職したぁい」

 ストレスのこもった麗奈の声に僕以外の三人が、やれやれまた始まったな、見たいな笑みを浮かべた。

「何言ってんだ。スズカ書房なんて一流の出版社に就職してんのに。この前、何かのプロジェクトチームに選ばれたって喜んでただろ」

 蒼にたしなめられると、麗奈はウ〜〜ッと小さく唸った。そして、店員が運んできたカクテルを受け取ると、一気に半分ほど飲み干す。

「チームリーダーの人と合わないんだもんッ。私の出すアイデアに、いちイチ噛みついてくるしさ、出さないなら出さないで、やる気ないのかーーとか言ってくるんだよ。もうほんと腹立つ、あのオバサン〜〜ッ」

「こりゃ、相当溜まってますなぁ」

 佐々木さんは腕を伸ばして、よしよしと麗奈の頭をなでた。

「もう無理ッ、アイデアなんて出てこない。どうしてミステリーとかじゃ駄目なのよ。殺人事件が起こったっていいじゃない」

「なにそれ、何だか面白そうね」

 佐々木さんが興味津々に身を乗り出すと、麗奈は少し迷うようにカクテルを一口飲んだ。

 でも、グチをこぼしたい気持が勝ったようで、ポツポツと話し始める。

「電鉄会社とのコラボなんだけどね。そこの電車や路線を舞台にしたお話を創って、電子書籍に載せるの。その企画やアイデアを出し合って、まとまったものを作家さんに書いてもらうの」

「へぇ~〜、出版社ってそんなことまでやるんや」

 上田が感心しながら、次の飲み物どうする? とみんなにメニュー表を向けた。

「・・・なるほどね。確かに、自分とこの電車で殺人事件が起こったらイメージ悪いわね」

 ビールを注文した佐々木さんが、いたずらっぽく笑うと、麗奈はムゥッと口を尖らせた。

「名探偵と、怪盗がブレーキの効かなくなった電車の中で戦うの。最後は、止めることができるんだけど、爆弾が仕掛けられていて、爆発のなかから脱出するってクライマックス。どう? 面白いと思わない」

 麗奈は、ウルウルとした大きな瞳で、僕を見つめてきた。はい、かわいいです。

 そう思っているのを悟られないよう、少し思案してる顔を作って答える。

「エンターテイメント的には、面白いと思うよ。でも、鉄道会社の安心安全のイメージとしては、まずいことだらけかな」

「だな」

 蒼がいい間で相槌を打ったから、ドッと笑いが起こった。

 すると、麗奈がさらにすねてしまい、佐々木さんが蒼と席を代わって、本格的に慰め始めた。   

 僕は、高校時代に何度も見たその光景を懐かしく眺めながら、電車に揺られて通学していた時のことを思い出していた。

 正確には、退屈な移動時間に色んな空想を膨らませていた記憶。その中に、電車をモチーフにした空想もいくつかあった。

 なかでも好きだったのが・・・

「おーい、大丈夫か拓? もう酔ったのか」

 蒼の声が聞こえて、僕は自分の世界から引っ張り出された。いかんいかん、悪い癖が出てしまった。

「ごめん、考え事してた」

「考え事? あぁ、懐かしの妄想ダイブな。そうなると、呼んでも聞こえないのは相変わらずだな」

 呆れたように蒼が言った。ついでに、妄想ダイブと名付けたのもこいつだ。

「それで、どんな妄想してたんだ。オカズは麗奈か?」

「なッ、なに言ってんだ蒼。そんなんじゃないってッ」

 麗奈が両手で胸元を隠して、キモいんですけどと表情で言っている。

「いや、ほんと違うから。ちょっと、高校の時に空想してた電車の話を思い出してただけだって」

「へぇ~〜、どんなの? 聞かせてくれたら、信じてあげよう」

 佐々木さんが興味半分、からかい半分な口調で促してきた。そういえば、学生時代よく本を読んでたな。

「いや、ほんと、たいした話じゃないよ」

 みんなも、そんなに興味ないだろうに。飽きられないようかいつまんで、そして速度は1.5倍で話すことにした。

 それは、いつもの通学電車に乗った主人公が、電車の中で子ギツネを見つけ、その子ギツネが前の車両に行ってしまったので、その後を追って前の車両に行くとタイムトラベルをしてしまう話。

 前の車両には大正時代頃の人達がいて、大きな汽笛の音で、蒸気機関車に乗っていることに気づく。

 それから、機関車は聞いたことのない駅名で止まると、主人公は追い出されるように下車する。そこは、その時代の学生達の通う学校があるところで、主人公はそこで、色んな人の助けを借りながら、帰る方法を探す。

「そんなような話です」

 僕は額の汗をおしぼりで拭きながら、カラカラになった喉にビールを流し込んだ。

「なんで、電車にキツネがいるのか意味不なんですけど」

 やっぱり、麗奈の興味は引けなかったようだ。

「キツネってほら、稲荷神社の神様で、そこで知り合った女学生がデパートを将来経営するんだけど、その彼女を主人公が現代の知識を生かして助けるんだ」

「ふ〜〜ん、よくある話ね」

「そう? 私は結構面白そうだと思うけどな。続きは?」

 ありがとう、佐々木さん。でも、これ以上は、恥ずかしさに耐えられないので勘弁してください。

「ごめん、ちょっとトイレ」

 僕はそそくさと席を立った。あぁ、嫌な汗かいた。

 僕の両親は小さな居酒屋を経営している。夫婦経営なので、夜はほとんど家にはいなくて、5つ離れた兄貴と夜は2人きりだった。

 年の離れてることもあって、兄貴とあまり遊ぶことはなく、1人でヒーローの人形やら、ロボットのおもちゃを手に持って、いろんな空想を膨らませて

よく遊んでいた。

 そのせいか、いろんな空想をするのがクセになってしまっていた。

 でも、人に話すものじゃないな、やっぱり。

 そして、ゆっくり時間を費やして戻った頃には、すっかり恋バナにシフトチェンジしていて、ホッとした。

 蒼は麗奈に、色々と質問しているようだった。

 寄りを戻してたわけじゃなくて、これから寄りを戻すつもりのようだった。

 上田は、2年付き合っている佐々木さんの彼氏のグチを聞かされていた。

 僕は両方の話を聞きながら、時々求められる同意

に応えながら、皿に残った料理を頬張った。



「じゃあ、麗奈と俺はこっちだから」

「おお、またな」

「おやすみ」

 大分、酔が回った麗奈はケラケラ笑って、フラフラと右へ左へ行こうとするのを、蒼に誘導されなら帰っていく。 

「あいつら、また付き合うんかな」

 2人の背中を眺めながら上田が言うと、佐々木さんが苦笑をもらした。

「それはないんじゃないかな。麗奈、会社の先輩と付き合ってるって、このまえ言ってたし」

「えッ、でも麗奈、今は付き合ってるひといないってッ」

 思わず声が大きくなたってしまって、佐々木さんは少し驚いた表情を浮かべたが、直ぐにフフッと得意気に笑った。

「分かってないな星崎。彼氏がいないっていえば、男達はチヤホヤしてくれるでしょ」

 悲しいけど、おっしゃる通りです。

「でも、麗奈を悪く思わないであげてね。あの子も、相当ストレス溜まってたみたいだし」

「そういうもんか」

 と、上田は肩をすくめながら僕を見た。その意図を察して、僕も曖昧に笑い返す。

「次回の飲み会は、男だけで蒼を励ます会だな」

 「そうだね」

 上田と僕の打ち合わせに、佐々木さんは声を出して笑った。




 

 

お話は書き上げているので、修正ができ次第、どんどんアップしていきます。

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