5話【力を込めて】ト【束の間の休息】
南十字星のような4つの点が紙切れ以外にも
発見した。
それは机が置かれた【南】側の白い壁だ。
白い点ではなく今度はわかり易く黒の点が4つ
描かれている。
俺は、4つの点を十字に指でなぞり中央にあたる
部分を力を込めて押してみた。
ズボッ!?壁に穴が空いた。
壁をなぞっている時から見ためとは裏腹に違和感
があった。
壁をペンキや漆喰で塗っている感じとも違う、
これは紙で貼られたタイプだ。
それでも人差しだけで簡単に壁を突き抜けるほど、
俺は武道派のアニメキャラの真似事なんて
出来ない、ただの凡人だ。
モブキャラに近い存在だと俺は自負している。
では壁はどうして空いてしまったのか。
答えはまだわからない。
わかったとしても判断するにはまだ早い。
現段階では穴は一つだ。
俺はまだ南の壁に先ほどと同じ黒い点がないか探して見ることにした。
見つけ次第、指に力を込めてみようと思う。
南の壁一面を舐め回すように黒い4つの点を探しては指で穴を開けていく作業をして、ようやく3つめの穴を開け終えてしばらく経った頃、俺は束の間の休息を取っていた。
休憩を取っている場合ではない気がするが、目と指の疲れが半端ない。
「俺も歳だな(苦笑)」
なんて独り言を呟くと……
『20代前半の若者が何を言っとるんじゃバカ者!?』
「えっ?!な、何?誰!?」
部屋の辺りを見渡しても姿が見えない。
『あぁ、こっちこっち。お前さんが穴を開けた場所を覗いてみろ』
言われるがまま覗き込んだ。
すると隣の部屋が見える。
マネキンや石像がずらりと沢山置かれ、まるで美術館のような部屋だ。
『そっちじゃない、ま〜っすぐを覗くんじゃよ』
声の主は俺が見てる場所がわかるらしい。
素直に従い覗くと、真実の口のオブジェがパクパク口を開け閉めしている。
『お前さん今の部屋から出たいだろう』
「もちろん」
『簡単じゃよ。部屋から出るには何がいるのか考えてごらん』
そう言って真実の口のオブジェは目を閉じて話さなくなった。
それと今更ながらわかったが事がある。
南側の壁の中央付近にだけ、はじめから木の板やコンクリート等で部屋と隣部屋の間は塞がれていない。酷い欠陥住宅のような部屋の構造になっているのではないだろうか。
そう思うと真実の口のオブジェが言った事がヒントであり、この部屋からついに脱出出来そうな兆しが見えてきたような気がして他ならない。
5話 End
お題【力を込めて】24‘10/8
【束の間の休息】24’10/9