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第6話

 汽車の移動に少々トラブルはあったものの、参加した弟のパーティーは感動的であり、サンディアナの隣に寄り添うブレントは、控えめに言っても最高だった。


「まあぁ、サンディアナってば。うちの娘にこんなに素敵な恋人がいたなんて知らなかったわぁ」


 家族に挨拶と紹介をすると、母は上機嫌でブレントをほめまくる。

 とはいえ、ちらっとサンディアナを見る目には揶揄(からか)う色があったので、母にはバレてるような気もするが、秘密にしてあげるというように小さく頷いてくれたので余計なことは言わないことにする。藪蛇になっては元も子もない。


 父はどこか不機嫌そうだが、耳打ちしてくれた兄によると、どうやらこの休暇の間に引き合わせたい男性が数人いたらしい。


(お父様の気持ちは嬉しいけど、それとこれは話が別! ブレントを連れてきて正解だったわ)


 そんな父もブレントと話しているうちに態度が軟化し、パーティーが終わるころにはすっかり機嫌よくなっていたので驚きだ。何を話し込んでいたのかはよくわからないが、どうもお酒の趣味が合うというのも大きかったらしい。

 父はけっしてお酒に強いわけではないが、その分好みがうるさいのだ。趣味が合う人がいて嬉しかったのだろう。



 面倒の原因の一人であったべサニーは、ハレの日用に装ったサンディアナを見て文句を言えなくなったらしい。

 王都で買ったドレスは、ヴィオラが太鼓判を押した通りサンディアナによく似あっていたし、もちろん今は眼鏡もかけていない。

 顔立ちがそれほど整っているわけではなくても個性があって、装いが似合っていれば、雰囲気美人くらいにはなっていると自負しているのだ。もちろんメイクも頑張った!


「ふ、ふーん。素敵なドレスじゃない」

「そうでしょう? 友達が勧めてくれたんだけど、お気に入りなの」

「でもサンディ。眼鏡がなくちゃ、人の顔もろくに見えてないんじゃないの?」


 あいかわらず言葉に棘があるべサニーに、サンディアナは残念な気持ちで微笑んだ。せっかく綺麗な装いをしているのにもったいない。


「眼鏡は仕事用。魔力の流れを見るためにかけているだけだから、休暇中は必要ないのよ」


 一度外すと視界が安定するのに少し時間がかかるから、仕事のある日はかけっぱなしにしているだけなのだ。


 それでも何か言い募ろうとしたべサニーに割って入るよう、父と話していたブレントがサンディアナの腰を抱いて甘やかな笑顔を浮かべた。はたから見れば熱心な崇拝者にしか見えない態度に、サンディアナは内心舌を巻く。


「ディアの眼鏡は俺が作ったんだ。不調はないかい?」


(声が(あっま)っ!)


 素で赤面してしまったが、ここはこのまま利用しようと思い、にっこり微笑み返す。


「もちろんよ、ブレント」


 多少棒読みだったけれども。

 ブレントの肩が小刻みに揺れているような気がするけれども。

 サンディアナは何も気づかないふりで、ブレントに甘えるよう寄り添った。


 仕事用の眼鏡は、就職が決まったころにブレントが作ってくれたものだ。

 分厚いレンズはやぼったいが、裸眼では注意してようやくうっすら見える程度だった魔力の色が、レンズを通すことではっきり見えて感動した。

 魔力の流れに沿ったり逆らったりは、魔石を磨いた後の効果に大きな差が出るのだ。あの眼鏡がなかったら、今も相当苦労しただろう。


(あの時は天才だってブレントを絶賛したのよね)


 うっかり大好きだと言ってしまったのはあの時だったか。

 そんなことを思い出し、日ごろの感謝を込めて改めてブレントを見上げると、彼が驚いたように瞬いて、そのままスッと視線をそらされてしまった。


(うむ。可愛くはないけど、周りには照れてるように見えるだろうから悪くないわね)


 ブレントがサンディアナ相手に照れるはずがないので、偶然でもそうに見えるならありだろう。

 べサニーが何かもごもご言って去っていく後ろ姿に、思わずにんまり笑ってしまう。


 その後、妻子を伴ったタグにも話しかけられたが、なぜか挨拶もそこそこに離れて行ってしまった。


「どうしたのかしら」


 こてんと首をかしげると、ブレントが口の端を上げて凶暴な笑顔を見せるのできょとんとしてしまう。


「ブレント?」


 不思議に思って呼びかけると、こちらに体を向けた彼が両腕をサンディアナの腰に回し、ダンスでもするかのように抱き寄せられてしまった。


「ディアは恋人に熱烈に愛されてるって見せつけとかないとね」

「なるほど?」


 はたから見れば、学生時代から付き合ってる恋人に見えるよう根回しをしたらしい。しかも相手は、タグなど足元にも及ばないくらいいい男だ。デマなどあっさり消えるだろう。


 ほかの噂に上書きされるような気もするが、かがんだブレントに耳元で「褒めて」と囁かれ、つい吹き出してしまった。


「さすがブレントだわ」


 つい大好きと付け足しそうになったけれど、それは言ってはいけない一言なので、きちんとお口にチャックをしておいた。

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