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第4話

   ◆


 ブレントの発言には驚いたものの、ヴィオラの熱い勧めに押し切られ、結局彼に恋人役をお願いすることになってしまった。

 最初冗談だと思って笑い転げたサンディアナをよそに、二人は役柄・・に必要な設定とかいうものの打ち合わせをはじめてしまったのである。


 報酬はいらないというブレントは、サンディアナの窮状を面白がっているのだろうが、かわりにガノーアの観光案内をするということで手を打った。


 普段ならお互いさまで済むが、今回は事情が違う。

 自分の都合で後輩を働かせておいて、礼もできない先輩なんて言語道断ではないか。

 どうせ休暇に旅行でもと考えていたらしいブレントには、宿泊費はおろか、交通費さえ負担することを断られてしまった分、豪勢な食事くらいはごちそうすべきだろう。

 脳内で彼が好みそうなレストランや観光地を急いではじき出した。


「そうだ。たしかブレント、この時期発売になる蒸留酒が好きだったわよね」

「ああ、サンディが前に飲ませてくれた地元の酒――セレストの恵みでしたか。あれはまた飲みたいですね」

「まかせて! おいしいお酒と食事を出してくれるお店があるのよ」


 パンと手をたたいてにっこり笑うと、ブレントは頬杖を突きながら首を傾げるようにして、ふっと目を細めた。その瞬間にじみ出る彼の色気が胸を直撃し、サンディアナの喉が一瞬詰まる。


(な、なんだかご機嫌? それとも何かの罠? いつもと違いすぎて謎すぎるっ)


「それは楽しみだ。念のため言っておきますが、ちゃんとデートに見える服を用意してくださいね」

「でえと……?」

「はい、デートです。パーティーの時だけ恋人のふりをしたって、そのあと普段通りに行動したら、すぐに嘘だってばれるでしょう」


 呆れたように目を丸くするブレントに同意するよう、ヴィオラまで真面目な顔でこくこくと頷く。


「そうよ、サンディ。やるなら徹底的にしなきゃ。そうね。汽車に乗る時から、こっちに帰ってくるまで、ブレントのことを、ちゃんと恋人として接すること」

「え、そこまでしなくても……」


 さすがにそこまでするのはブレントも迷惑だろうと思ったのだが、彼は面白そうに口の端を上げただけだ。本気で楽しむ気満々らしい。


「だいたいサンディ。あなた、山のような縁談がほしいの?」

「っ! ……いらないです」

「そうでしょ?」


 サンディアナは恋人役のプロ(ヴィオラ)のアドバイスはちゃんと聞いたほうがよさそうだと観念した。相手がこの生意気なブレントだとしても、彼ならうまくいくという確信があるに違いないのだから。


(変な感じだけどね)


 べつに、ブレントが不満というわけではない。

 普段の態度はともかく、彼が真面目で努力家なことも(本人は隠しているみたいだけど)知っているし、金属を加工する姿や手元は(見ているのをバレないよう最大限に気を付けてるけど)魔術師のようでうっとりする。そこに自分たちが加工した魔石をはめるのを見るのは毎回楽しみで、仕上げで保護魔力を注ぐ姿は神秘的。 本音を言えば、かなり尊敬もしているのだ。


 けれど素直にそれを言うと鼻で笑われてしまう。かわいくない。


 一度だけ何かの拍子に「好き」と言ってしまったこともあるのだが、彼の頭をぐりぐり撫でてしまったのがよくなかったのか、華麗にスルーされてしまった。

 そりゃあ恋愛的な意味ではなかったけど、聞かなかったふりはさすがに淋しいではないか。


 しかし恋人の設定に盛り上がる二人、というか主にヴィオラの熱に、サンディアナはくちばしを挟むことがついぞ出来なかった。

 出来なかったのだが――――。

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