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第3話

 呻く原因となった親戚らの顔を思い浮かべ、げんなりする。

 べサニーは同い年の親戚だ。母親同士がイトコなので、当然彼女たちもパーティーには来るだろう。


 子供のころから何かとサンディアナに突っかかってくるべサニーは、見た目だけなら小柄でふわふわとした女の子らしい女の子だった

 興味のあること以外は大雑把なサンディアナと違い、家事全般が得意なべサニーは料理も得意だそうで、偶然食べたことがある彼女が作った焼き菓子はとてもおいしかった。

 サンディアナは兄二人弟が一人と男兄弟しかいないのだが、べサニーも兄が一人だけで姉妹がいないとという共通点もある。

 サンディアナとしては、むしろおおいに仲良くしたいタイプなのだ。


 その為、何かと嫌味を言われても「可愛いわね」と思っていたのだが、どうもそれがよくなかったのか、余計に嫌われてしまった。非常に解せない。


 また、サンディアナは十五で王都の王立学園に進学したのだが、それも「女らしくない」と嫌味のネタの一つになってしまったらしい。

 サンディアナとしては、自分の好きなことを学べるのに夢中だったから全然気にしてなかったし、よくネタが尽きないものだと素直に感心したくらいだけれど。


 一方べサニーの兄のタグはサンディアナに優しかったが、思い込みの激しいタグがサンディアナは苦手だった。

 二人で会ったことがあるのは学生時代、長期休みに帰省した際に、たまたまタイミングが合って一度だけランチを (かなり渋々)共にしたことがあるくらいなのだが、なぜか付き合っていることになってて頭を抱えた。

 正直そこそこ男前ではあるが、まるで話の合わないタグは好みではない!


 一応告白めいたことをされた時にはやんわり断った。時を経て、一年前に彼が結婚したことで、噂なんて完全に落ち着いたと思っていた。

 しかし、ここ二年程仕事で忙しく、タグの婚約パーティーも結婚式も欠席してしまったことが、周りに盛大な勘違いをさせたらしい。


「失恋したショックで帰省もできなくなったサンディアナに、みんなが同情してるって何? 誰が、誰に、失恋したってのよ」


 そのことを弟の手紙で読んで、「めんどくさい」と頭を抱えてしまったのだ。

 弟たちはそれがデマだと分かっているだろうが、周りは真実よりも面白さのほうを取っているように思う。サンディアナが二十三歳(もうすぐ誕生日も来る)になっても仕事ばかりで、浮いた話もないのは異常だと言ったところか。


 サンディアナの兄弟たちほどではないが、タグは地元では割とモテる。本人にもモテる自覚はあるようだから、サンディアナが歯牙にも欠けていないということが、本人にも周りにも理解できないのかもしれない。迷惑な話だ。


 しかも去年、王都に遊びに来ていたべサニーとその夫に偶然会ったときの格好もよくなかったのだろう。

 仕事の用事で外に出ていたため、きっちり髪をまとめ眼鏡をかけた地味女のサンディアナに、べサニーはいかにもショックを受けたような顔をしていたのだ。

 いや、目は面白そうに笑っていたけれど。


 きっとあの後、ショックでサンディアナは女を捨てたとでもうわさを流したのだろうと思いいたり、遠い目になってしまう。


 仕事が潤滑に行くように好きで地味な格好をしてるのだが、説明したところで理解はしないだろう。


 だが、不名誉な噂はどうにかしておきたい。


「でないと、山のような縁談が来るわ」


 自分で言った言葉にぶるっと震える。


 サンディアナにだって結婚願望は人並みにあるけれど、仕事に理解のない男と添い遂げる気はさらさらない。

 サンディアナの仕事は、路傍の石のような魔石を、彫金士が作ったアクセサリーに合わせてサイズピッタリに美しく磨き上げること。魔石は磨き方やカットがほんの少し違うだけで性能が大きく変わってしまう。しかし繊細な仕事はとてもやりがいがあるし、楽しいのだ。


「サンディのお父様が、よさげな独身男性と引き合わせてきそうなところが目に浮かぶわ」


「うわっ、やめてー。身内のパーティーなのに、ほんとに部下とか連れてきそう。――いや、お父様強引だからなぁ。お兄様の友達だから身内同然、みたいなこじつけした人がいるかも。いや、絶対いる気がしてきた。うーん、せめて私が、恋人でも連れて帰れば違うんだろうけどなぁ」


 いないけど。


「私が男なら恋人役をしてあげるんだけどね」


 女で申し訳ないと肩を落とすヴィオラはこの一年程、ある男性の恋人役を何度かしている。

 もちろん信頼できる男性の頼みで、こちらもやはり縁談よけだ。

 サンディアナが「報酬もあるんだし、バイトだと思ってやってみたら?」と勧めたのが始まりなのだが、その人のパートナーが必要な時に謎の女性として登場する面白い役割だ。


 ヴィオラがばっちり装うと、仕事中の地味な雰囲気からは全く想像できないような、儚げで清楚な美女になる。

 そんな彼女だから、「恋人役」なんて単語がスルッと出てきたのだろう。


 そこへ、休憩に来ていた彫金士のブレントが「へえ」と呟いたのが聞こえたかと思うと、彼はコーヒーを持ったまま、許可もなくサンディアナの横に座ってにっこりと笑った。


「それじゃあその恋人役、俺が引き受けましょうか」

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