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第2話

 その日、工房の食堂で遅い昼食をとっていたサンディアナは、郵便事故で遅れて届いた手紙を読んで思わずうめき声をあげた。


 最初はいい報告にニヤけていたのだ。

 差出人は弟のマックスで、なんと長年想っていた相手との婚約が決まったというのだから。


(やっと……やっとくっついたのね!)


 サンディアナから見れば明らかに両想いなのに、なかなかくっつかない二人にやきもきしていたが、忙しくて帰省していなかったこの一年半の間に色々あったらしい。帰ったら色々聞かなくては! と、ワクワクした。


 サンディアナの故郷は王都から魔道汽車で四時間ほどのところにある避暑地、ガノーアだ。

 ガノーアでは、夏の終わりにもなるとひんやりとした風が吹き始める。この風は豊穣の神セレストの息吹と呼ばれ、ガノーアではこの時期に結婚式や婚約パーティーが開かれることが多い。セレストは縁結びの神でもあるのだ。

 マックス達もセレストにあやかって婚約パーティーを開くという。


 しかし郵便事故で手紙が一か月以上遅れて届いた為、パーティーは五日後という慌ただしさ。返事はもちろんできていないが、もともと秋休暇に帰省する連絡はしてあったので、サンディアナの休暇に合わせたのだろう。切符の手配はまだしてなかったが、久々の長期休暇だ。もともとの帰省を一日早めるくらいは問題ない。


(出かける前に片付けようと思ってたものは、帰ってからすればいいか)


 あれやこれやの手順を考えていると、同じく遅い昼休憩で一緒におしゃべりをしていたヴィオラが、申し訳なさそうに眉を下げた。


「手紙を届けるのが遅くなってごめんね」


 ヴィオラは研究所の配達人だ。郵便からちょっとした伝言メモまで、研究所内の伝令で走り回っている。

 ちょうど昼前の配達がサンディアナで最後だったというので、一緒にランチをしていたところだった。


「大丈夫よ。これは事故のせいであってヴィオラのせいじゃないもの。むしろ帰省前に読めて助かったわ」


 今回の事故は半分は天災、半分は人的ミスだったようだが、研究所の配送部はもちろん、すみやかに配達してくれたヴィオラに非はない。

 しかしこの古くからの友人は綺麗な眉を下げ、心配そうな顔を見せた。


「でも、サンディ。格式めいたものではないとはいえ、身内が集まるパーティーだと色々準備もあるでしょう?」


 さすが親友。よくわかっている。

 結婚式ではなく、身内や親しい友人を集めて開く婚約パーティーだ。本来ならそれほど大仰にする必要はない。


 しかし妙齢の女性(結婚適齢期)としては、あまり手を抜くと親世代及び、友人たちからの視線が痛いのは確かである。田舎の適齢期は王都よりずっと早いので、二十四歳に手が届きかけているサンディアナは、故郷から見ると行き遅れ予備軍なのだ。面倒になりそうな隙は見せられない。

 やりすぎにならない程度の絶妙なバランスが必要なのだ。


「そうねえ。でもドレスは今日買いに行けば大丈夫よ。南のブティックは既製品も洗練されているから、何かしら、旅にも向くタイプのものを見繕えるはずだし」


 最近人気のブティックは、オーダーメイドで作られた最先端デザインをもとに作られた既製品を売るお店で、サイズも種類も豊富なのだ。スケジュール的に汽車からパーティー会場に直行することを考えても、それに見合うドレスは何かしらあるだろう。


「それなら昨日、ウィンドウにオレンジのドレスが飾られてたわ。落ち着いた色味で甘すぎないデザインの。あれ、サンディーに似合いそうよ」

「いいわね。見てくるわ」


 TPOを大事にする地味子仲間のヴィオラとは、学生時代から十年近い付き合いだ。彼女のセンスには絶大な信頼があるから、ヴィオラが似合うというなら間違いないだろう。


「とはいえ、問題はべサニーたちなのよねぇ」

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