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シガテラ

 一応人間にカウントされるであろう豚を、助けるかどうか悩んだのが顔に出たのかまた人豚が騒ぎ始めた


「そ、そうか、金か、金が欲しいんだよな!ほら、受け取れ!」


 上ずった声とともに飛んできた2枚の硬貨をキャッチした。


 白い硬貨、それなりに重く打ち合わせて見ると小気味よい音がする。


 あらゆる物質の解説を表示する【鑑定の魔導書】を起動し価値を調べた結果一枚で5人家族が慎ましい生活を三年程継続できる硬貨だと分かった。よしよし、報酬も美味いし助けてや……


「さっさと助けろ!お前如きにはもったいないほどの報酬をやったんだ、これでぼくの高貴な血が途絶えたら、どう責任を取るつもりだ!世界の損失だぞ!さっさと高貴な者を守れ、このペチャパイ!」


 脳の血管が破裂する音が聞こえた。キレた。


「うっせー!末代確定のてめえの血筋なんかここで途絶えようが誰も悲しまねえよクソボケ!馬車の下あたりに引きこもって頭抱えてガクガク震えながら寝てろクソカス!」


 クソデブへと中指を突き立てながら叫んだ。

 言った後に気付いた、やっべえ、思わず王族、つまり面子を命より大事にする上に容易く国家武力を振るえる連中の面子に傷をつけちまった。


 豚王子だけでなく護衛兼御者のジジイ共も、なんならちょっと、比喩じゃない方の豚共も固まっている。


 ……まあ後で靴舐めるなり聞き間違いでしたで押し通すなりするか、最悪魔道具で記憶破壊すれば良いか、それより今は目の前のオークだ。


 さっきも言ったがこいつらの能力は魔術で石作ってからの投石。たったそれだけの能力だが状況次第では龍の炎以上の脅威となる程ヤバい。


 投石というと一見大差ない能力の様に思えるが中位種の投石ですら剣と大差ない重さの重量物が300kmを越す速度で飛んでくる。


 これが上位種になると投げられた石が空気との摩擦で発火し火でできた尾を引くようになる。最上位種に至っては小型の隕石とも呼べる威力に至る投合を12km以上先からぶち込んでくる。ここまでくるともはや投石と言えるかどうかも怪しい。


 黒龍よりかは幾分ましだがとち狂った射程の投石をしてくるこの豚はおれの天敵だ。


 この世界ではどうだか知らんがあちらの世界では魔道具を全て解放すれば世界最強の一角だったおれですらあのクソ豚共に幾度も追い詰められてきた。おれの所有する魔道具の射程外からチクチク削られるのは本当にきついのだ。



 一応超長距離狙撃持ちに対して切れるカードは無くは無いものの超長射程の飛び道具使いは基本的に天敵だ

 そしてそれだけならまだいい。


 全然良くは無いが、まだマシだ。なんせこいつらの上位種、最上位種は石を精製するのと同時に石へ【破壁】のルーンを仕込んできやがる。

 おかげで、奴らの石はこちらの防具の効果を無視してダメージを与えてきやがるのだ。

 ぶっちゃけ下位、中位の龍よかよっぽど厄介だ。


 一応近接戦闘能力は迷宮の魔物としては高くない。

 ただしそれは魔物としては、だ。

 比較的熱くないマグマだから肩まで浸かっても平気だろ?と言われてもマグマの時点でヤバいだろ、そういう事だ。



 一応対策もある、1つ目は投石を食らった瞬間石の当たった角度と石の質量、威力から豚野郎の位置を逆算して接近し斬り殺す事。一体であれば死ぬ気で突っ込めば投石で削りきられる前に比較的マシな接近戦に持ち込める。もっともそこら辺を理解している奴らもいる為知恵をつけた上位種は基本的に十体一組の小隊を組んでいるため正面突破は不可能だ


 そこでこれだ。

 右手に持った立方体状の箱、【みかわし香の箱】を起動、緑の煙が周囲に広がった。


 この緑の霧はあらゆる投合物の軌道を書き換える。よっぽど変わった投げ方をしない限り対象に投げ物が当たらない領域を作成する。

 そしておれは目の前の略奪者が前の世界と同じ種だった場合に飛んでくるであろう投石に身構える。


 しかし石はいつまで経っても飛んで来なかった、代わりに豚どもは隊列作成後鬨の声を挙げ手にそれぞれの獲物を携え突っ込んできた。


 OK、こちらのオークは十中八九投石能力を持たない!見たところ動きもそこまで速くはない、おそらく対処は十分可能!


 迫りくる豚の大群を前に【シガテラ】を掴み盾を構える。


 右手に剣、左手に盾の両手剣スタイルがおれの基本的な戦闘態勢だ。


 本来は利き手である左手で剣を、空いた右手で盾を持つのが筋なのだろうがおれの場合盾を防具としてのみならず鈍器としても使用するため利き手に盾を持ったほうが良い。


 かすりさえすればそれだけで致命的な被害を負わせる【シガテラ】を装備している今なら尚更だ。


 一通りドーピングが終わった後確認したが、一応下位龍程度なら素手でもギリギリ勝てそうな程度の身体能力はついた……とは思う。


 恒常的な強化を与えるドーピングアイテムは肉体が薬を受け付け無くなる限界まで使い切った。それでも男だった時よりも遥かに弱体化している。身体能力自体は全盛期より3割程度低下するにとどまっているものの脳に染みついた動きと今の身体で出来ることにかなりのブレが生じている。はっきり言って男だった時の身体のいいとこ半分程度の力しか出ないだろう。


 しかしその程度のディスアドバンテージ如き、容易くひっくり返すからこその魔剣。


 おれはまるで慣れ親しんだ路地を歩くかのように接近し、豚面へと自然に刀を振り下ろした。


 振り下ろされた金属の塊は下卑た笑顔を浮かべた豚面の耳を削ぎ落とすににとどまった。

 それだけで十分だった


【シガテラ】に彫られた五つのルーン【麻痺】【睡眠】【沈黙】【混乱】【暗闇】


 5つに分けられてこそいるが全部脳へと作用する毒を放出する効果を持つルーンだ。


 そして今回発動した効果は【麻痺】


 脳が身体へと命令する神経経路を狂わせ一切の身動きを取れなくさせる。

 外部から刺激をあたえてやることで狂った神経が正常に動き始めるので一方的に攻撃ができるわけではない、集団戦では解除される危険性もある。

 しかし動けない間に距離を取って矢で蜂の巣にするなど応用が利き使いやすい効果だ。


【シガテラ】によって耳を切り落とされ豚が停止した瞬間間髪入れず喉笛を掻っ捌きトドメを刺す、乱戦の中どつかれた糞豚が再起動する可能性を考えての事だ。


 続いて杖を持った魔術に長けていそうな豚面を突き刺す。今度発動したのは【沈黙】

 魔力とやらを使いを明らかに物理法則では説明できない事象を引き起こす特殊技能、それが魔術、及びに特技。おつむの良くないおれでは到底理解できない領域だったし、最後まで使えなかったがそんなおれでもその有用性は理解している。


 そして【沈黙】はその魔術に干渉する。

 魔力の流れをめちゃくちゃにかき乱す事で魔術を使えなくする。

 魔術は不発、不発。

 魔術師らしき豚は最後まで顔に疑問符を浮かべながらくたばった


 次にやってきたのは兄弟?戦友?はたまた恋人?何でもよいか。重要なのはおれともまともに打ち合えるほどの抜群の連携能力をもっている豚コンビ。

 そいつらは腹を纏めて切られた事による【混乱】によりお互いの横っ面を差し貫き絶命した。真っ当に戦えばそこそこ面倒な事になりそうだった連中をあっさり仕留められたのは悪くない。


 この毒は思考の整合性を破壊する。


 味方を殴りつければ敵を排除できる、鼻くそをほじれば空を飛べる。脱糞すれば世界が見える。こういう具合の思考になる。冷静な皆様方からすればわけわかんねえだろ、おれも自分が受けるまでそう思っていた。でも食らうとそういう思考になっちまうんだなこれが。


 同士討ちも狙える為便利だが注意点もある。


 前の世界では同士討ちを何度も繰り返す事によって【存在進化】なる現象が起きていた。


 下位種は中位種に、中位種は上位種に、上位種は最上位種に進化し身体能力及びに特殊能力が大きく強化される。


 同士討ちを発生させる性質上ペーペー時代に運悪く混乱での同士討ちによって存在進化を引き起こして爆誕した上位龍に消し炭になるまで焼き払われたのは苦い思い出だ。


 さらに突撃してきた豚面の頸動脈を軽く引っ掻く、大して問題なく【暗闇】が発現する。方向感覚までも腐らせるこの猛毒により糞豚は俺とは全く違う方向へ突撃していく


 ドタドタ間抜けな音を響かせながら走るオークを後ろから突き刺して殺す。


 さらにさらに繰り出した袈裟斬りが【睡眠】を発動させる。


 これは中途半端に行動の取れる他の状態異常と違って完全に行動を封じる。


 シンプルながらもシガテラによって与える効果の中で最強の効果である。効果は10秒だけだがそれだけの時間無防備になっているのであればおれは龍すら容易く屠れるのだ。


 一瞬でも動きが止まればその瞬間首を刎ねて終わりだ。眠った豚は死んだ。


 最後はリーダー格の大豚。


 繰り出された斬撃を盾で受け流し唐竹割りを繰り出す。


 残念、どの異常も付与できなかった。


 しかしオークの身体の正中線に閃きが走ったかと思うと真っ二つに裂けた


 いくらなまくらといえども今のドーピングにより超強化された筋力、男だった時から引き継いだそこそこ高い戦闘技術を併用すれば骨ごと断ち切り一刀両断にする事も容易い。


 こうして最初の斬撃から20秒も経っていない内に豚の集団は全滅した。


 刀の血を振るって飛ばしおれは振り向いた。


「どうだ王子様、金払った価値あったか?」

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