ドーピング
アレから5時間後、おれは草原にあぐらを欠きながら死んだ目で虚空を見つめていた。
ちなみに5時間経っているのは現実逃避の為に寝て、起きて、気の所為でも夢でも無かったという事実を突きつけられ不貞寝し直したからだ。
クソッタレ、女体は大好きだとは言っていたが自分が女体になりたいと言った記憶はねえんだよボケ。
しかもなんだこれ、胸に手を当てるとそこにあって当然の弾力が全く無い。ぺたーんとかすとーんとかいう擬音がするほどに貧相だ。はっきり言ってしまえばド貧乳だ。ああ糞、この際女体化までは百歩譲って許すからせめて爆乳にしといてくれよ、夢なら覚めてくれ、そう思っておれ様のもちもちほっぺをつねる、このもちもちをおっぱいに分けて欲しかったぜ。
その時ぐぅぅと腹の虫がわめき始めたので嘆くのを中断して異空間から好物のたらこおにぎりを取り出した。
経験上腹が減ってる時はろくな考えが浮かばないしネガティブな思考ばっか脳に浮かぶようになる。
こう言うときはさっさと腹を膨らませなければ。
異空間から取り出したおにぎりを片っ端からもぐもぐと齧りながら今後の事を考えていき優先事項を決めていく。
まず最優先事項が人に会う事だ これは当然だ、そもそも他者を求めて黒蛇島という地獄をくぐり抜けて世界転移までやったのだ。これは必須だろう。
次に家出中の愛しい息子を取り返す事。おれは地位名誉名声から美食に至るまで俗物が好みそうなものは全部好きだが一番好きなのが風俗通いだ。これは必須だ。方法に関しては今のところ具体的なものは思いつかない。しかしこの広大な世界の何処かには聖杯のような願望器も存在するかもしれない。仮になくても性転換の効果を持ったマジックアイテムが存在するかもしれない。世界の果てまで探して無かったら?そんときゃおれが道徳ゼロモードになるだけだ。
最後に金を稼ぎ酒池肉林ウハウハ生活を送るための資金を稼ぐ事。ぶっちゃけ手持ちの魔道具全部売り払えば十分な金額は稼げるだろうがそれをやると護身用の武器が無くなっちまう。この未知の世界に備える為にも一定の戦闘力は必要だ。おれの力がこの世界でどこまで通用するか分かってない以上いくら戦力があっても過剰と言う事は無いだろう。そして求めるマジックアイテムが黒蛇島のようなところに置かれていることを想定して極力アイテムは温存しておきたい。それ故換金以外の金銭入手手段は早いとこ見つけたい。
こんなところか。まあ要はこの人のいる世界でなんとしてでもチ◯コを奪い返して面白おかしく生きようと言う事だ。
そのため必要なのはまず筋力、そして身体能力だ。あちらの世界では生身でも英雄レベル……とまではいかないが相当に強かったおれの肉体。それが女体化だか転移だかの影響でアホみたいに弱体化している。
以前なら下位の竜なら素手でもなんとかなっていたおれ様だがいまだとチワワに普通に返り討ちにされかねない。
おれが強力な多数のマジックアイテムを所有してるからといってそれを使うのがおれ自身の肉体である以上おれの身体能力も一定水準は欲しい。
しかし今からしこしこ筋トレするのなんて性に合わんしそんな時間も無い。
そこでこいつらドーピングアイテムの出番だ。
さっき【シガテラ】を取り出したのと同じ要領で倉庫から【幸せの薬】【天使の薬】【力の薬】【弟切薬】といったドーピングアイテムを片っ端から引き出し飲んでいく。幸せの薬は飲むと永続的に身体能力全般を上昇させる、天使薬はその上位版、力の薬はその名の通り力を引き上げる。弟切薬は傷を負っている時に飲むと回復薬になるが無傷五体満足の状態で飲むと耐久力を引き上げる。まあそれぞれに限度はあるが限度いっぱいまでドーピングすれば最低限の戦闘力にはなるだろう。
幸せの薬は無味の癖して消毒液みたいな匂いがしてクソまずいが天使薬は消毒液にシロップをドバドバ入れたかのような味がする。これだけ聞くと不味そうに思えるがまあ美味いんだこれが。好みこそ分かれるだろうが舌を伝う甘みと鼻を伝う消毒液の臭いを同時に味わうのは癖になる。