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夏に出会った小さな神様

作者: 花春
掲載日:2024/01/14

人は、気づかないうちに何かに救われていることがある。


それは偶然と呼べる出来事かもしれないし、

あるいは、誰かの小さな優しさが形を変えたものなのかもしれない。


ほんの些細な行いが、

時を越え、巡り巡って自分へと返ってくる。


そのとき、それを単なる偶然と受け取るか、

それとも目に見えない“何か”の導きと感じるかで、

世界の見え方は大きく変わるだろう。


これは、ある夏の日の出会いをきっかけに、

見えない優しさと守りの存在に気づいていく物語である。

ある夏の暑い日、

私は神様に出会った。


高校二年生の帰り道。

その日は今年一番の暑さだといわれていた。


照りつける陽を避けるように、

私は屋根のあるベンチで少し休憩することにした。


そこには先客がいた。


純白の毛並みを持つ、美しい白猫。

あまりの暑さのせいか、どこか弱っているようにも見えた。


私は自販機で水を買い、

その白猫に少しずつ分けてあげた。


水を飲んで落ち着いたのか、

白猫は私の隣へと軽やかに飛び乗り、そのまま横になった。


綺麗な毛並みをそっと撫でると、

気持ちよさそうに目を細める。


しばらくして、私が帰ろうと立ち上がると、

白猫は小さくひと鳴きした。


それはまるで、

「ありがとう」と伝えているようだった。


その日以来、あの猫の姿を見ることはなかった。


それから私は大人になり、上京して故郷を離れ、仕事に就いた。


久しぶりに帰省したある日、

散歩がてら、あの公園へと向かった。


道の角を曲がろうとした、その瞬間――


私のすぐそばで、猫の鳴き声が聞こえた。


驚いて足を止める。


その直後、目の前を凄まじい速さでトラックが走り抜けていった。


もし、あのとき足を止めていなかったら。

もし、壁に視界を遮られ、トラックに気づけていなかったら。


私はどうなっていたのだろうか――。


恐ろしい想像が頭の中を駆け巡る。


呆然と立ち尽くしていると、近所のお婆さんがこちらに気づき、心配そうに声をかけてきた。


猫の声がしたこと。

それによって事故を免れたこと。


私が話すと、お婆さんは静かに言った。


「それはねぇ、神様だよ」


「白猫を助けたことはあるかい?」


その言葉に、私は思い出した。


学生時代、あの暑い日に水を分けてあげた、白猫のことを。


そのことを伝えると、お婆さんはどこか嬉しそうに語り始めた。


「私も昔……神様に助けてもらったことがあるんだよ」


この地域には古くから、

小さな神様が存在するという言い伝えがあるのだという。


その神様は、身近な動物の姿を借りて人のそばに現れ、

助けてくれた者を見守り、守ってくれるのだそうだ。


お婆さんもまた、戦時中にその神様に救われたのだという。


「あの神様は、まだ白猫の姿でいてくださるんだねぇ」


そう言って、穏やかに笑った。


そして私は、お婆さんに案内され、

その神様が祀られているという祠を訪れた。


祠の前で手を合わせ、静かに感謝を伝える。


あの日、水を分け与えた小さな行いを、

神様はずっと覚えていてくれたのだろう。


そして、私を救ってくれた。


どんなに小さな善意であっても、

それを忘れてはいけないのだと、心から思った。


誰であっても、手を差し伸べること。

その気持ちを、これからも大切にしていこうと誓う。


祠を後にした帰り道。


最後にもう一度だけ、

あの白猫の鳴き声が聞こえた気がした。


――学生時代、夏の暑い日に、

私は確かに神様と出会っていた。

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