王都①
二人を乗せた空飛ぶ船は、ギリギリの所で灰の塔がある火の大地へ着陸する事に成功した。
飛ぶかどうかも怪しかったので、当然だがどのくらいの飛距離があるのかもわからなかった。ここまで、上手く移動できただけでも上出来だろう。
「うーん、もう一回分のエネルギーはありそうだが、これは帰りに一応残しておこうかな。とりあえず、こいつは近くの森にでも隠しておこうぜ」
物語書きはおじさんに教えてもらった通りに点検をして、ライと一緒に押して空飛ぶ船を森の中に隠した。
その間も、仕切りに物語書きはライの様子を伺っていた。一方のライはいつもと変わらない様子だった。
「よし、どっちに行こうか」
「ああ、そうだね……」
「どうした、何かあったのか?」
「いや、てっきり君がナハトの事で悔やんでいたりしていると思ったんだが僕の思い違いのようだな」
その言葉にライは空を見上げる。ライの中で、ナハト達を置いて自分達だけで出発した事は何か思う事がないと言われれば嘘である。
余裕がなさすぎて、別れの言葉さえ発する事ができなかったのだ。
「悔やんでいないと言えば嘘になる。だが、わかったんだ」
「何がだい?」
「ありきたりかもしれないが、たとえ離れていてもこの旅で出会った者が俺の中に色濃く残っているんだ」
ライは思い出す。目の前にいる物語書きに連れられて、苦しくても旅に出た事。
物語書きが来てくれなかったらライはあの洞窟で一人朽ち果てていただろう。
「お前がいなければ、俺は歩き出す事すらしなかった」
村の事を見守っていたエルダードラゴンに剣を教わった。そして、彼の命を終わらせた。あの重みは今もライの手に残っている。
「この剣は形見であり、俺の誇りだ」
「そんな剣を掃除とか落ち葉を払う時にしか使ってないがな」
「それは言わないで欲しいな」
妖精の国では、妖精族の王女と出会った。彼女は灰を恨みながらも、最後には安らかに死んでいった。彼女の娘は旅の途中で出会えるだろうか。
「まだ、旅の途中だ。チャンスはあるだろう」
メイドにはこの世界で最高のおもてなしをしてもらった。話好きの主人とは空で会う事が出来ただろうか。
「彼女の手料理は美味しかったな。今後はあれを超える事はできないだろう」
そして、風の大地の大剣豪ナハトと出会った。行き倒れしていた彼女を助けた。
最初は仲の悪かった物語書きとナハトだが、いつの間にか仲良くなっていた。最後まで一緒に旅をするとばかり思っていたが、ナハトは残る事を選んだ。
「不思議とナハトと別れて、悔しさも涙もでなかった」
ライも旅をしてきて理解していた。この世界で別れた者は次に会う時には生きている事はないだろうと。
そして、自分の中に何か暖かい物が湧き上がってくる。これが、何なのかはライが一番わかっていた。
「俺の中にみんながいるんだ。みんなに生かされた俺が出来る事は一つしかない。俺はもう迷わず進むよ、この旅で答えが出るその日までな」
「ああ、生きている僕達が出来るのは灰の塔に行き、この悪しき灰の原因を突き止める事だけさ。ライ君にしてはよくわかってるじゃないか」
「ライ君にしてはは余計だろ」
ライの中で生まれた暖かさはライに勇気と覚悟をくれる。真っ直ぐ進める道しるべとなっていた。たとえ、どんな結末が待っていても止まる事はないだろう。
「それだけの覚悟を持っているなら、さっさと移動しよう。僕も火の大地の事は知らないが、灰の塔に真っ直ぐ向かえばいいだろう」
二人は強く火の大地を踏み締めて歩き出した。土の大地と同じように、火の大地も灰だらけであり、見た目だけで言えば土の大地となんら変わらない光景が広がっていた。
歩いて行くと街道に出た。二人が街道とわかったのは、大きな看板が置いてあったからだ。そこにはこう書かれていた。
『この先、街道。冒険者の街、王都セイクリア』
看板の案内を頼り歩き続けると、二人の目の前には妖精の国よりも大きな街並みが見えてきた。
それよりも、二人のは驚きを隠せないでいた。人がいたのだ。人がいるだけではここまで驚く事はなかっただろう。土の大地にもそれなりに生き残りがいたからだ。
では、何故二人は驚いていたのかというと、二人が見た事がないぐらい人が集まっていたからだ。
この世界でこんなにも人が生きていたなんて、二人の中ではあり得ない光景であった。人々は獣人の少女と言い争いをしている。
「待ちなさい!! 外に出たら化物が彷徨いていて危険よ。王都には蓄えだってまだあるわ」
少女は必死に王都の外に出ようとしている人々を危険だからと止めているようだった。だが、獣人の少女の思いは人々には伝わらなかったようだ。
「うるさいなあ!! 聖女の作っていた結界も壊れた。安全な場所なんてどこにもないだろうが!!」
「そうよそうよ!! それに西には楽園という安全な場所があると聞いたわ。そこに移動した方がいいに決まってるわ!!」
「冒険者が何だ偉そうに、この役立たずどもが!!」
獣人の少女に罵詈雑言を浴びせると、彼女を無視して歩き出してしまった。獣人の少女は何を言っても無駄な事を悟り、悔しそうに見送る事しか出来なかった。
その一部始終を見ていたライと物語書きは獣人の少女に近づいて行く。




