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美しきニューハーフ達

「はい、これ。」


「悪いね。」



テーブルの下でワンセットと指名料分のお金をもらう。



「いいのよ、来てもらったのはこっちなんだから。」



月末の歌舞伎町は結構人で賑わう。どの店もキャストが客を必死に店に誘うからだ。お店によっても違うのだけど、それぞれノルマや目標があって、そこに到達するか否かでサラリーが変わったりする。それはお店の№1の子でも同じで、№1なら№1に求められるノルマは高かったりする。



今日はニューハーフパブのカスミからの頼みでお店に来ている。彼女はお店の№1で、その日のお店には彼女の客がわんさか来ていた。それでも僕らに自分のお金を渡してでも来てもらってノルマを達成するのは、単に給料だけの問題ではなく、他のキャスト達にしめしがつかないからだろう。どんな手を使ってでもノルマはこなす。その気合が凄く伝わってくる。



ここのニューハーフパブの子たちは、良くアフターやプライベートでもティア・マレに来るし、ママとも仲が良かったからよく顔を合わせていた。身長は180cm近くあるけど、とても美形で綺麗な顔をしている。それ以上に性格も良かったから、ティア・マレの常連客はカスミ達とは仲が良かったし、今日みたいに来てもらわないといけないときには駆け付けてあげた。それにカスミもそういうときじゃなければ無理にお店に遊びに来いということも無かった。



「今日は楽しんでいってね。みんな気合入ってるから。」



ニューハーフパブの面白さは、キャバクラなどとは違って、単におしゃべりするだけのお店ではない。1日に何回かショータイムがあって、素敵なショーを見ることが出来る。ちょっと興味のある女性や、あまり興味のない男性などを連れて行ってあげると、ショータイムの面白さ、綺麗さに驚いて、ニューハーフに対する見方が変わることが多い。普段はニューハーフっぽく、おどけてみたり、女性をちょっといびってみたりするが、ショーになると途端に真剣な表情で自信のある姿を見せてくれて、店内の空気が一変する。僕もそんな姿を見ると、ああ、みんな本当に女性以上に女性だなと思わされた。そうやって、彼女たちと共に過ごす時間が長くなると、本当に女性としか見えなくなる。見えなくなるというか、見た目ではなく、存在が女性と言う風に感じるようになる。



「カスミ、今日のショーは凄かったよ。楽しかった。ごめんね、おごってもらったから今度ティア・マレでご飯おごるから。」


「いやー!もっと高いお店にしてー!」



さっきまでの真剣な姿から、いつものカスミに戻っておどけた話し方に戻っていた。



性転換手術、ホルモン注射、ヒアルロン酸、エステやメイクなど、色んなものでその美しさと性を保っていた。そういうものにかけるお金も相当なものだったし、体型とショーの美しさを保つためにお昼から夕方は結構な時間を練習に費やしていた。普通に生きている自分達よりも、自分の中の性の違いに対する葛藤と、それを仕事にするためには、今もそうかもしれないが、その当時はそういうところでしか働くことが出来ない難しさを感じた。



「カスミはさ、本当に綺麗だよね。」


「いやー!もう、もっと言ってー!」



そう言って僕の頭をぎゅうぎゅうと抱きしめる。カスミの胸のあたりからすごく良い匂いがする。本当にいろんなことに気を使って、お客さんを楽しませようと一生懸命で、何とか頑張って生きていこうとする姿は、普通の夜のお店の女の子の何倍も上なんじゃないかと思う。



あれから、長い年月が過ぎた。



カスミのいたお店はもう無くなってしまった。



今もどこかで頑張っているのだろうか?



彼女たちが見せてくれた、面白くて美しいあの夜のことを、いつまでも思い出すことが、僕なりの彼女たちへの感謝とリスペクトなのかもしれない。

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