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素人とベテラン

いつものように青木さんに連れられて、歌舞伎町界隈のお店に来た。青木さんは一人でお店に行くのが好きではないので、僕を見つけると、


「タク、行くぞ!」


と言って僕を連れて遊びに行く。いつも汚れたズボンにジャンパーをひっかけてティア・マレに来る青木さんは、一見しょぼくれたオジサンのように見えるが、今でも世界のあらゆる国を相手にする会社の社長さんだ。だから、誘うからにはいつもおごってくれるのである。一緒に飲みに行ったとしても、僕はほとんどお金を使う事は無かった。



夜の9時過ぎで、まだまだお店も賑やかで混んでいる。見知ったボーイさんに連れられて、テーブルへ座る。僕には指名する嬢がいるわけでもないから、フリーで色んな女の子が回ってくる。



「おー、タクー、久しぶりー!」



久しぶりも何も、昨日の夜ティア・マレで会ったじゃないの。もう、久しぶりと言う言葉を掛けることが仕事になりすぎて自然とその言葉が出てしまうみたいだ。



「昨日会ったでしょ!」


「一日ぶり!」



特にこうやってお店に来ても、新鮮味がない。だいたいここにいる嬢は、みんな顔見知りになってしまっている。



普通、初めてつく嬢が来たら、まず名前と職業言ったり、この辺で遊んでるのかとか、趣味はとか、お酒を飲みながらくつろいだお見合いのようなことが繰り返される。そこで、この嬢とは相性がいいなと思えば、その時点で場内氏名を入れるか、次回から指名をつける。そこから先は、その客がどのくらいのペースで飲みに来るのか、何を求めて遊びに来るのかを嬢が見極めて、電話やメールで連絡してみたりするという駆け引きが始まる。



この点は、キャバクラも外人パブもホストクラブも変わらない。だから、あまり遊んだことのない人が思うより、いかがわしい遊びではない。確かに旦那や奥さんがいる人なら、うつつを抜かしてなんて思うかもしれないけど、まあ、大体はお酒を飲みながら愚痴を話して鬱憤を晴らすようなところだと思ってもらえばいいかと思う。嬢の方でも、そんな火遊びになったり、過度なサービスになるようなことはしない。だって、そんなことしてもメリット無いからである。



確かに、よくテレビなどで観るような高級バッグを買ってもらう嬢や、色恋をメインで誘うホストなどが目立ってしまうけど、遊び慣れていない人がドハマりしてそうなるくらいのもので、ほとんどの人は言い方がおかしいかもしれないけど、節度を守った遊び方をしていると思う。楽しくお酒を飲んで、楽しく会話をするというのが、基本的な遊び方だ。中には、遊び方が下手な自己中なオッサンや、嬢やホストに入れ込んでしまうウブな人もいるけども。



はいはい、どうもどうもと言う感じで知り合いの嬢たちが入れ替わっていく。僕の隣のお客さんのところに、ベテランのティファニー姐さんが付いた。こちらをチラッと見てあいさつ代わりにウインクする。僕も眉を上にあげて挨拶返しをした。



「コンバンハ、初めましてー。」



どうやら、初めてのお客さんのようだ。30代前半くらい、ちょっと爽やかで、あまり遊び慣れていなさそうなサラリーマンだ。こっそりどんな会話をしているか聞いてみようか。



「日本にきてどのくらいですか?」


「ワタシマダ日本来たばかり、日本語あまり上手じゃないねー!」



いやいや、あなた漢字読めるじゃない!



「へー、お姉さんおいくつ?」


「ワタシ、23歳デス。」



おっとどっこい!あなた野球少年の中学生の息子いるじゃない!



「じゃあ今度、車で海とかへドライブでも行こうか!」


「嬉しい、ドライブしてみたいー!」



姐さん姐さん!最近歳で疲れが抜けないから昼間は出来るだけ寝てたいって言ってたじゃないの!



それからも、姐さんは調子こいたことをぬかして、若くて純心なファーストタイマーを気取っていた。うん、遠い昔を思い出しているのかしら?客の方もどんどん熱が入ってきて、飲み物飲ませてフルーツ盛り入れて一本延長して、また遊びに来るからとメールの交換してウキウキ顔で帰っていった。



よっぽど後ろから追いかけてって、両肩をがっしりと掴み、大きく前後に揺さぶりながら、



「目を覚ませ!ここは歌舞伎町だぞ!(ベテランしかいない地域)」



と言ってやりたかった。そしてデイジーのような本当のファーストタイマーがいるお店に連れて行ってあげたかったが、これも商売であり、勝負である。確かに薄暗い店内で、元々キリッとした美人だから見誤るのは致し方ない。初戦から負け戦は可哀想だが、良い先輩がいなかったのが敗因か。まあティファニーなら、楽しく遊ばせて金を搾り出させようなんてしないから、大丈夫だろう。もしかしたら、1番本当に難しいことになるのはビギナーとビギナーの組み合わせかも知れない。



「ティファニー、あのお兄ちゃんビギナーなんだから、もっとお手柔らかにお願いしますよ。」



というと、私もまだまだいけるでしょ、みたいな顔をしたのも束の間、



「お腹凹ますのも大変だったよ…。」



と言ってちょっとガニ股になりながらウェイティングシートへ戻って行った。



ふと反対側を見れば、さっきまでご機嫌だった青木さんがベテラン嬢のシンディと喧嘩している。この2人は年がら年中、笑ったり怒ったり。まあでも、この二人はベテランとベテランだから放っておいても心配はない。ちゃんと遊び方、遊ばせ方をわきまえている。



何だかなぁ、なんて思っていたら、ティファニーが戻ってきて僕に耳打ちした。



「クリスがタクに指名して欲しいんだって。」



と言って指名料を僕に渡す。店のナンバー1のクリスが、自腹を斬ってまで話したい事って何だろう?珍しくウェイティングに座ったクリスがこっちを見てはにかみながら手を振っている。



「青木さん、もうワンセットいきます?」


「ああ、そうしようか。」



喧嘩が終わって仲直りしたせいか、もうちょっといたいらしい。



通りがかかったボーイさんを呼び止め、クリスを場内指名する。時間はまだ夜の10時半。歌舞伎町の夜は、まだまだ賑やかさを増していきそうだった。



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