第2話 火の魔法
鬼灯組でペットとして飼われることになった龍太郎。
だがその命を、仁は密かに狙っていた。
(こんなやつがお嬢のペットだなんて認めねぇ。)
仁は鬼灯組の中でも凜を最も慕っている男だ。子守役を任されて以来、凜のためならなんだってやってきた。その凜が、よりにもよって九鬼組の残党なんぞに懐いている。
そのことが――仁には、どうしても許せなかった。
(俺がお嬢の前で正体を暴いてやる……!!)
(そうすりゃこいつは終わりだ!)
仁は作戦を練った。実にシンプルな作戦。
魔法少女なら、魔法が使えるはずだ。だが龍太郎はただの人間。魔法なんて使えるわけがない。
凜の前で魔法を披露させ、できないところを見せつけてやる。それだけでいい。それだけで龍太郎の命はおしまいだ。
「おい!! 龍太郎!!」
鬼灯組の屋敷の中庭。冬の空気が肌を刺す昼下がり、仁は龍太郎の前に仁王立ちした。
「なんだ?」
龍太郎は表情一つ変えない。筋骨隆々の体躯に似合わず、その態度はどこか泰然としている。
「お前が本当に魔法少女だって言うなら、魔法を見せてみろ!!」
仁はニヤリと笑った。
「お嬢も見たいですよね?」
龍太郎の隣に座っていた凜が、ぱっと顔を輝かせた。
「うん、見たい♪」
「くっ……」
龍太郎の表情がわずかに歪む。
(ふふっ、困ってる、困ってる……!!)
仁は内心で快哉を叫んだ。
(そりゃそうだ……! 関東最強のヤクザと言えどもただの人! 魔法なんて使えるわけねぇ!)
龍太郎はおもむろにポケットからタバコを取り出し、火をつけた。紫煙がゆるりと冬空に立ち昇る。
沈黙。
龍太郎は煙を吐き出しながら考えていた。
ここで魔法を見せられなければ命はない。龍太郎が死ねば、九鬼組は完全に終わる。組長との約束も、組の魂も、すべてが灰になる。
(……考えろ。何か手はあるはずだ。)
「飼い主のお嬢がこう言ってるんだから見せろ!」
仁が畳み掛ける。
「そうだな……火の魔法を使え! 魔法少女からしたらそんなのお茶の子さいさいだろ!?」
「定番の魔法だね。」
凜が無邪気に言った。
「龍太郎?余裕だよね?」
その期待に満ちた瞳が、龍太郎の胸を締め付ける。
「ほらさっさとやれ!」
仁の声が勝ち誇ったように響いた。
――その時、龍太郎の目が空の一点を捉えた。いや、正確には捉えたふりをした。
「……あれは……UFO?」
龍太郎が空を指差す。
「え? どこ……? UFO見たい。」
凜が身を乗り出して空を見上げた。
「誤魔化そうとしたって無駄だぜ……ほらさっさと――」
仁が龍太郎を急かそうとした、その刹那。
龍太郎は手に持っていたタバコを、弾丸のように仁に向かって投げつけた。
「ふんっ。」
短い呼気とともに放たれたそれは、寸分の狂いなく仁の頭頂部に着弾した。
「な、何しやがる!」
仁が叫んだ直後、ワックスでガチガチに固めた髪にタバコの火が移った。
「ぎゃあああ! 頭が!! 頭が燃えるうううう!!」
仁が頭を抱えてのたうち回る。その光景を見た凜は――
「すごい、火の魔法だ♪」
目をキラキラと輝かせて手を叩いた。
「やっぱり龍太郎は魔法少女なんだね♪」
「いや、違いますって! お嬢!!」
頭から煙を上げながら仁が必死に訴える。
「というか消して!! 火を消してええええええ!!」
中庭に仁の絶叫が木霊する。
龍太郎はその様子を横目に見ながら、新しいタバコに火をつけた。
(助かったか……ただこの調子でいつまで上手くいくか……)
紫煙が冬の空に溶けていく。
(いや、泣き言は言ってられん。)
龍太郎は拳を握りしめた。
(九鬼組を復活させるまでは――何があっても生き延びるんだ。)
(たとえそれが、魔法少女として生きる道だとしても。)
続く…




